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ある物語 50 

ある物語

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第五〇話


2001年の年の暮れである。
随分とリサイタルをしたものである。
 
初リサイタルの鎌倉からはじまり・・・
東京、札幌、新潟、神戸・・・
 
12月は、依頼されたコンサートに出演した。
それで、終わりである。
だが、新年早々も、あるホテルにてのコンサート依頼があった。
 
上々の気分である。
 
藤岡は、大晦日だけ、鎌倉の母親の所に戻ることにしていた。
母親は、一人でいるのが寂しくない人でと、藤岡が言うので、私も、あまり心配せずにいた。
 
だが、一年後に横浜に呼ぶことにしているので、新年から、その部屋を探し始めることにする。
 
大晦日。
私は、一人で過ごしていた。
二月の、初リサイタルの夜に、決めたことで、走り続けた。
そして、これからも、続けてゆく。
 
藤岡との出会いで、ここまで人生が変化するとは・・・
更に、お金にまだ余裕があり、次々と、コンサートの計画を立てるのである。
 
一度開催した場所では、続けて行うことにした。
そして、また新しいホールを利用して、広げること。
 
思いついた時に、ホールに電話をして、利用案内を送ってもらう。
それが、どんどんと、溜まった。
 
更に、広告である。
コンサートの告知をすることにした。
それも、私が勝手に原稿を作り、送る。
 
知らぬ者の強みである。
 
元旦に藤岡が戻って来た。
料理の苦手な母親の所にいるより、私の部屋に来た方が、いい様子である。
 
母親に、今年の三月に横浜に引っ越しするよと言ったと、藤岡が言う。
そろそろ、部屋を探すよ・・・
 
藤岡の鎌倉の部屋は、三月で契約が切れるのである。
 
お母さんが、元気であることが、幸せだった。
あの人は、テレビを見ていれば、それでいいんだ・・・
そんなことを言う。
 
友達は、面倒だから、嫌だって・・・
確かに、横浜に来てからも、お母さんは一人で楽しそうだった。
 
新年のホテルの企画のコンサートには、私も同行した。
 
関東の冬は、私の一番嫌いな季節である。
その寒さが嫌なのだ。
北海道の冬を知る者にとっては、温かいのだが・・・
何となく、寒いと感じるのである。
その、寒さの感覚が嫌なのだ。
 
暖房が曖昧で、寒いような、まあ、これなら大丈夫かという、具合の悪さである。
 
ただ、雪が無いというのが、ありがたい。
着物を着る私には、とても楽だった。
 
さて、依頼されたコンサートは、品川にある大きなホテルである。
全国にチェーンホテルがある。
 
そのホテルの中に、古めかしいホールがあり、チェンバロがあった。
チェンバロ伴奏による歌である。
 
その伴奏者である女性とも、その後、縁があり、何度か伴奏をお願いした。
本来は、ピアノであったが・・・
 
その後も、そのホテルでは、何度か企画に参加した。
音楽事務所が入っていて、そこからの依頼である。
 
兎に角、藤岡の活動が広がることが、嬉しい。
一つの縁から、更なる縁につながる。
 
そして、私も次第に、クラシック音楽なるものに関しての、造詣が深くなった。
次第に、である。
全くの、ど素人が、理解し始めたのである。
更に、その世界の、へんてこりんさ、である。
 
その、へんてこりんに関しては、追々書くことにする。
 
西洋音楽・・・
西洋の民族音楽が、世界的な音楽として、認められるということは、西洋が世界を席巻していることである。
何にせよ、西洋が中心になっているという、驚きである。
 
例えば、世界史という時の歴史は、西洋の歴史が中心である。
 
それは、日本が、明治維新から取り入れたもの。
西洋に学べという、意識。
それから、西洋礼賛がはじまる。
 
そして、敗戦後は、アメリカである。
アメリカ礼賛である。
 
そして、日本と、日本人は、西洋人、アメリカ人のようになることを、目指してきたという、不思議。
 
藤岡は、西洋音楽を目指したが、その心は、日本と、日本語にあったといえる。
矢張り、母語で歌うことが、絶対不可欠であるという、思いである。
母語で歌えない者が、西洋の歌を歌っても、せん無いことだという、意識である。
 
私も、それには、大賛成だった。
 
 
 


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