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ある物語 64

ある物語

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第64話


2002年の夏の、ミュージカル出演。
それから、また、リサイタルが続く。
 
九月である。
東京にて、ギターと共に・・・
そして、早々に、ミュージカルのホールの、小ホールでの、カウンターテナーとの競演である。
 
ギターは、今も付き合いのある、千葉真康君である。
藤岡と、あるオーディション会場で出会ってからの、付き合い。
その後、私とも会い、藤岡の伴奏と、ソロ演奏を頼むようになる。
 
さてその頃、私の中には、飛べカウンターテナーというアイディアが出来ていた。
五名のカウンターテナーの競演である。
それは、翌年の二月の開催だった。
 
つまり、その頃、カウンターテナーの五名と私は出会っていたのである。
その、一人一人との出会いは、忘れた。
藤岡と三人で、酒を飲み歩いたカウンターテナーもいる。
 
だが、その彼は、とても酒が強くて・・・
途中で、藤岡が抜けた夜もあったことを、思い出す。
 
深夜、遅くなるだろうと察して、私は、ビジネスホテルを予約していたが・・・
藤岡は、横浜に戻ったはずだ。
 
十月は、四度のコンサートである。
名古屋では、ソプラノとの共演である。
藤岡の友人の、ソプラノの方の縁で開催した。
 
更に、九月開催した、カウンターテナーの競演を、広島でも行った。
 
もう一つは、私の希望で、チェンバロによる宗教曲のリサイタルである。
それは、録音業者に頼み、いずれアルバムにする予定だった。
 
そして、もう一つは、私が企画した絵画と音楽の、表現することは素晴らしいアート展、である。
 
兎に角、思いついたことを、即座にやった時期である。
藤岡も、それに付いて来た。
 
その企画で、多くのアーティストたちに出会うことになる。
音楽だけではない。絵描き、陶芸、竹細工、バリ島のバティック・・・
 
札幌から参加した人もいる。
 
最初だったので、打ち上げをした。
そのうちに、藤岡が打ち上げを嫌うようになり、藤岡を先に帰すようになったが。
 
地方のコンサートの後は、兎に角、打ち上げが必要だった。
それで藤岡も、付き合いで参加したが・・・
舞台で疲れた藤岡には、少しきついものがあったようだ。
 
結局、私が最後まで付き合う形になった。
 
今思うと、随分と多くの人に出会ったものである。
 
それはそれで、良いことだったが・・・
人が集えば、色々な問題も生じる。
 
更に、芸術家たちであるから、なお更である。
 
ただ、影響し合うという結果はあった。
更に、そこで出会う人たちが、新たな付き合いをはじめる、きっかけにもなった。
 
私の、パニック障害は、随分とよくなり、全く乗り物など問題なくなった。
ただ、藤岡が時々、夜になると具合が悪くなっていた。
私は、疲れのせいだと思った。
 
藤岡は、とても繊細な性格である。
更に、外に出ている時は、完璧に演じていた。
 
感情を現さないのである。
スマートな対応。
 
私は、それが出来なかった。
部屋に戻ると、それでよく喧嘩をした覚えがある。
 
僕が困る・・・と言っていた。
確かに・・・
藤岡のイメージに関わることになる。
だが・・・
言いたいことは、言うのである。
 
だから・・・と藤岡は、言った。
木村さんに対する、人の見方を聞いていると、その人のことが、解ると。
つまり、その人が、自分のことを木村さんに映して話すというのだ。
 
勿論、そういう人は、私に近づかないのである。
遠くから、私を見て、私のことを言う。
それを藤岡が聞いて、この人が言うのが、この人自身なのだ・・・
 
地声が大きい私は、要するに怖い存在になる。
 
ある、高級な集いに、招かれた。
そして、突然、藤岡にアカペラで一曲ということになった。
 
その際に、扉の開け閉めで、会場に微妙な音が立つのである。
後ろの席にいた私は、その担当の者に、何気なく、やかましい・・・と、言った。言ったのだが、怒鳴り声に聞えたようである。
 
会場全体が、シーンと静まり返り、更には主催者も入って来られなくなったようだった。
 
東京には、そんな人は、いないらしく・・・
とても、怖がられたようで・・・
 
一々、扉を開けるな・・・と言いたかったのだが・・・
つまり、開演している状態で、人を入れるな・・・と言いたかったのであるが・・・


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