木村天山旅日記
 ゴールデントライアングルへ
 
平成20年
 10月
 

 第2話

バンコク行きの、直行便は、日本時間で、深夜1時、タイでは、11時に到着する。

 

飛行機は、ほぼ満席である。

皆が乗り込むと、即座に動き出す。

時間通りではない。が、離陸するのに、30分以上も待った。

着陸、離陸の飛行機の、順番待ちである。

 

そのうちに、私は、眠ってしまった。

気づいた時は、食事の時間である。

 

バンコク、スワナプーム空港では、翌朝、六時発の、チェンマイ行きに乗る。

であるから、バンコク市内には、出ないで、空港で、過ごす。

これが疲れる。

 

そこで、今回は、三階にある、モスリムの、祈りの部屋を利用することにした。

イスラム教徒のために、用意された、部屋である。

彼らは、どこでも祈りを上げるので、空港内に、作られたのであろう。

 

スタッフと、二人で入ると、すでに、三名の人が寝ていた。

皆、壁に着くように寝ている。

私たちも、壁に沿って、体を横たえた。

 

夜中、空港で、過ごす旅行客は、多い。

皆、ベンチで寝たり、空いている床に、敷物を敷いて寝る人もいる。

 

この空港の、椅子は、皆同じで、実に冷たい。

そこに、そのまま寝ることは、出来ないほど、冷たい。

そして、寒いくらいの冷房である。眠られるはずがない。

 

モスリムの部屋は、涼しいが、寒くは無い。ただ、照明が煌々と照る。

 

イスラム教徒の場所であるから、他の宗教の人は、入らない。

何故、私が入ったかといえば、眠るためである。

イスラム教は、偶像を嫌い、演台が一つあるだけで、後は、何も置かない。

 

そこに、入る人は、イスラム教徒である。

皆、イスラム教徒であるから、事件は起きない。安全である。

眠るのに、相応しいのである。

 

もし、万が一、何か問われたら、日本語で、コーランの一説を朗詠しようと、思っていた。

日本流のコーランの唱え方だと言うつもりだった。

 

だが、誰も問うことなく、搭乗手続きまで、ゆっくりとしていた。時々、トイレに立った。

 

印象深かったことは、朝、四時まえに、パイロットがやってきて、30分ほど、祈っていたことである。

機長である。

これから飛び立つ、飛行機の、空の安全を祈ったのであろうことが、解った。

そして、パイロットが出ると、寝ていた一人の男が、ぶつぶつと、話し始めたことである。いや、話ではない。祈りの言葉である。

 

それを、聞いて、時間を見ると、そろそろ搭乗手続きの時間である。

 

男の部屋の隣が、女の部屋で、子供もいた。

中は見えないが、子供が出入りしていた。

 

大層な荷物を持って、部屋を出る。

皆、小さな荷物であり、私たちだけ、支援の衣服があるので、大量な荷物だった。

 

帰りも、私は、この部屋で過ごした。

スタッフの野中は、一階の椅子に、敷物を敷いて寝たようである。

何故か、入らないと言うのである。

 

言わないが、理由は解る。

想念の重さである。

祈るという、人の想念が重いのである。

そこに、残り漂う。

 

日本の伝統的、宗教的行為は、清め祓いが、最も大切である。

故に、兎に角、清め祓う。

しかし、他の宗教は、清めも祓いも無い。

ただ、祈りを捧げる。

良い悪いの、話ではない。

伝統と、伝承が違うのである。

 

神に向かって祈るのであるが、それが、その場に留まるのである。

通常の感覚で、考えれば、質も次元も違うところの、神に、通ずることはないのである。

通じるとは、同じ質と、同じ次元でなければならない。

 

以下省略する。

 

チェンマイ行きの飛行機は、空いていた。

これは、幸いである。体を、横にして、寝られる。

それに、時間通りではない。

全員乗った。じゃあ、離陸である。

これが、いい。

適当である。

 

飛行機の中は、冷房が効いて、寒い。

私は、バンコクの空港で、夏物の、紗の着物に着替えていたので、寒いのである。

体を横にしたが、寒くて、寝られない。しかたなく、目を閉じていただけ。

 

国内線は、サービスは無い。ただ、飲み物や、何やかにやを売りに来る。

その会社特性の、何とかという物を売っていた。

その説明が、長くて、うんざりした。

 

一時間程の、飛行時間で、チェンマイである。

タクシーは、120バーツで、皆同じ値段で、決まっている。

一台のタクシー運転手が、声を掛けるので、その人に決めた。

ターペー門の前のホテルの名を言うと、運転手は、今、工事中なので、別な良いホテルがあるという。

 

800バーツだというので、そこに決めた。

本当は、400バーツ程度の、ゲストハウスで、いいのだが、今は、これからのことを、考えて、少し高級なホテルにすることにした。

チェンマイ市内では、中級であるが。

 

新しいホテルで、実際の値段は、2700バーツもするホテルである。

目立たない場所で、人が入らないから、安くしているのだろうか。

フロントで、朝食付きで、850バーツと言われた。

それで、決めた。

 

いつもの、ターペー門から、離れて、ナイトバザールのある、場所に近い。

付近には、古くからの、日本料理屋もある。

 

朝、八時過ぎに着いても、チェックイン出来るのが、いい。

日本では、そんなホテルは無い。

ついでに、朝食を食べた。

150バーツで、バイキングである。

色々あって、楽しい。つまり、ホテル代は、朝食を抜くと、600バーツなのである。

 

円高、バーツ安で、いつもより、一万円で、200バーツ、約650円程多い。

スワナプーム空港では、一万円が、3600バーツ程度だった。

三万円両替したので、ホテル代が出たことになる。

 

朝食を食べて、少し寝た。

スタッフの野中は、眠いのか、食事もしないで、昼頃まで寝ていた。

 

翌日、国境の町メーサイまで、バスで行くことにしていた。約、六時間である。

一番良いバスで、行く。それでも、一人約300バーツである。

だが、六時間という長い時間のバスは、少し恐怖だった。

 

バス乗り場から、順次出ているとのことで、時間を調べなかった。

ホテルからは、十時に出る計画である。

 

乗り物に乗ると、足が浮腫む。

野中と、フットマッサージに出掛けた。

ところが、歩いていると、野中の携帯電話に、どんどんと電話がくる。

沢山、友人を作ったので、色々な人からの、電話である。

 

その一人、特に親友になった、レディボーイの、タニャさんが勤めたという、マッサージ店に行くことにした。

タニャさんの家では、以前、家の御祓いに行き、私も食事をご馳走になった。

 

ロイクロ通りという、夜の街である。

その通りは、夜になると、とても賑やかになるのである。

 

橋を渡り、タニャさんの勤める店に行った。

そこで、マッサージを受けることにした。

タニャさんの他に、別の友人も勤めていた。

それでは、二人に、やってもらおうと思ったが、もう一人のレディボーイが、私をマッサージするのが、恥ずかしいとのこと。

 

実は、私は、レディボーイに、嫌われている、いや、煙たがられるようである。

つまり、野中が、言うには、レディボーイであることを、見抜かれるからだ、というのだ。

 

それでは、他の女性に受けるかとも、思ったが、別の場所にすることにした。

野中は、タニヤさんに、やってもらうことになった。

 

ナイトバザールの付近は、マッサージ店が、数多くある。

激戦区である。

 

私は、元の道を戻り、ぶらぶらと、歩いた。

歩道に、店が出始めて、それを眺めて歩いた。

そうしていると、段々と疲れて、マッサージもしたくなくなり、そのまま、ホテルに戻った。

 

何度も、マッサージの店の前で、誘われたが、今ひとつ、乗り切れなかった。そういう時は、やめた方がいいのである。

ホテルの部屋で、休むことにした。

 

野中が、戻って来たので、ホテルの前にある、日本食の居酒屋に、行った。

経営者も、日本人で、わざわざ挨拶に来た。

前回も、一度来ている。

 

日本酒を、お銚子で頼み、一本を二人で飲んだ。それだけで、酔いが回った。疲れているのである。

言いたくないが、年のせいであろうか。

いや、年ではない。乗り物である。乗り物のせいで、酔いが回るのである。