木村天山旅日記

  悲しみを飲み込んだハ
  
平成21年6月 

 

第9話

最後の夜の食事といっても、つつましいものだった。

それぞれが、焼き飯を、注文した。

私は、豚肉の、コータは、鶏肉の焼き飯である。

 

そして、折角だからと、ベトナム春巻きを頼んだ。

二種類である。

生春巻きだと思っていたが、出てきたのは、揚げ物の春巻きだった。

だが、美味しかった。

 

飲み物は、水である。

とうてい、アルコールなどは、飲めない。

日本では、毎晩、日本酒を飲む私も、全く、欲しない。

 

明日の朝が、早いので、食べて、そのままホテルに戻った。

 

だが、まだ、八時前である。

 

もう少し、ハノイの夜をと、思い、マッサージを受けることにした。

コータは、部屋にいるという。

 

実は、一度、二人で、最初の日に、フットマッサージを受けている。

 

小路を入った、小さなマッサージ店である。

 

一時間、60000ドンである。約、250円。

ところが、終わると、マッサージ嬢が、チップを求めてきた。

私は、10000ドン、約30円を出した。

すると、その嬢は、50000ドンと、要求した。

 

日本円にすると、たいしたことはないが、要求されると、ムッとくる。

だが、私は、彼女が、フエ近くの田舎から出てきて、働いていることを聞いた。

大変だろうと思い、黙って、五万ドンを渡した。

 

二人分だから、10万ドンである。約、500円。

 

別の店の、フットマッサージの価格を見ると、一万ドンであった。

そこで、私は、その店に入り、チップは、いるのかと、尋ねた。

いらないと、答える。

つまり、あの店は、最初から安くしているが、チップで、儲けるべくの、システムだった。

 

勿論、地元の人には、通用しない。

観光客だから、通用する。

 

さて、私は、食後の、マッサージに出た。

夜であり、皆目検討がつかない、街の中で、マッサージの店を探した。

 

一軒のビルの、三階に、マッサージがある。

そこに、上がった。

 

価格を見ると、20ドルである。

その時、私は、何を勘違いしたのか、安いと、思った。

20ドルは、二千円である。40万ドンになる。

 

実に、高い料金であるが、勘違いは、後で気づく。

一時間、20ドルを払い、個室に案内された。

 

嬢が出て来て、サウナを勧めるので、言われた通り、衣服を脱いで、サウナに、向かった。

ミストサウナで、霧のような中で、汗を流す。

すると、嬢が、足湯を持って来た。

それに、足を浸す。

その時、日本人かと、尋ねられた。ジャパニーズと答えると、彼女は、にこやかに頷いた。

 

ある程度、体が温まり、私は、サウナ室を出た。

そして、個室での、マッサージである。

 

マッサージは、オイルだった。

そこまでは、良かった。

 

うつ伏せになり、背中をマッサージするが、今ひとつ、物足りない。

ただ、撫でているだけである。

 

気づくのが、遅かった。

 

単なる、マッサージではないことが、解った。

 

仰向けになると、バスタオルを取り除いたのである。

全裸である。

 

嬢は、私の股間に、オイルをつけた手を置く。

そして、言った、チップ50ドルと。

 

矢張り、これは、違う。

 

ノー、いやいや、違う、マッサージオンリー

しかし、通じない。

50ドルは、破格のチップである。

 

それで、私は、少し面白半分に、チップは、20ドルと言った。しかし、彼女は、ノー、日本人は、50ドルというと、60ドルも、70ドルも、くれるという。

 

なんということか。

 

それで、最初、日本人かと、聞いたのだ。

 

無理無理、ノー、と、私は、言った。

しかし、彼女は、ひるまずに、私の股間を刺激した。

 

普通なら、激怒する私は、抑えて、静かに、日本語で、無理だ、無理だと、言った。そして、ノー。マッサージオンリーと言った。

 

すると、彼女は、40ドルでいいと、言う。

それでも、無理だ。

 

私は、PD筋を使い、彼女の刺激に、反応しないように、した。

彼女は、刺激すると、男は、反応すると、思い込んでいる。

 

激しい、股間への、マッサージが続いた。

それでも、私が反応しないので、彼女は、30ドルと、言う。

 

とんでもない、所に来たものだと、思った。

 

これは、セクッシャルマッサージである。

要するに、手コキといい、射精させて、チップを取るという、マッサージである。

 

さて、私は、どうしたら、彼女に、伝えられるかと、腕を示して、マッサージと言った。彼女は、渋々、腕をマッサージする。

しかし、左足のマッサージが、残っている。

 

左足のマッサージがはじまった。

すると、更に、股間に手を延ばして、20ドル、オッケーと言う。

 

50ドルから、20ドルに落ちたが、私には、大変な、金額である。

つまり、20ドルのマッサージ料金と、チップで、40ドルとなるのである。

 

それは、四千円である。一万円が、190万ドンであるから、大金である。

 

トラブルを起こしたくないと、私は、一時間のマッサージを終えるのを、待った。

 

ワンアワー、オッケー

そう、もう一時間を過ぎる。

 

彼女は、オッケーと、渋々言う。

私は、急いで、衣服を着て、個室を出ようとした。

すると、彼女が、私に、ぴったりと寄り添い、チップと言う。

私は、彼女を、ゆっくりと、解いて、一目散に、出口に向かった。

 

すると、彼女は、アーとも、ウーとも、エーともつかない、形容し難い声を上げて、仲間の居場所に走った。

私は、追いかけられると思い、急いで、階段を駆け下りた。そして、ホテルに急ぎ足で、向かった。

 

男は、刺激すると反応するという観念と、日本人は、チップを多くくれるという、観念を打ち破ったと、私は、思った。

 

実に、嫌な気分の、マッサージだった。

だが、最初の、20ドルということに、気づけば、解ることだったが、ドンの、ゼロの多さに、勘違いしたのである。

 

20ドルは、安いと、思い込んだのが、間違いだった。

 

これは、マッサージの顛末である。

 

部屋に戻って、コータに話すと、年だから、狙われたのだという。

金を持っていると、思われたのだというが、いや、私が、誤って入ったことが、誤りだったのだ。

 

ハノイの人は、毅然としているが、田舎から出てきた人は、何とか、金にするべく、努力奮闘しているということである。

これも、生きるためである。

 

ちなみに、PC筋については、性について、というエッセイで紹介している。勃起を自由自在に司る、筋肉である。