木村天山旅日記

  悲しみを飲み込んだハ
  
平成21年6月 

 

第13話

帰国便は、ホーチミン経由で、成田行きである。

ホーチミンでは、約4時間ほど使える時間がある。

 

本当は、前回来た時に、回った、街の小路に入り、衣服を手渡しする予定だったが、バンコクで、ビルマからの、出稼ぎの人々に差し上げたので、衣服は無い。

 

それで、慰霊のみ執り行うことにした。

 

空港から、クタシーに乗り、サイゴン川の川縁まで行く。

 

タクシーは、乗車位置から乗るのが一番である。

誘われるタクシーは、ボラレるのである。

 

と、一人の男が、乗車位置から、声を掛けたたので、安全と思い、乗った。

そして、発車である。

私は、サイゴン川の、船着場を言った。

すると、20ドルというではないか。とんでもない、料金である。

 

私は、すぐに扉を開けて、降りた。

まだ、車のスピードが遅い時である。

運転手の男が、何か言うが、聞かなかった。

そして、コータも、停止した車から、降りた。

 

冗談じゃない、私は、大声で言った。

 

そして、乗車位置に戻り、係官の女性を待った。

少しの間、係官が離れていたのである。

 

街までの料金を尋ねると、7ドルである。

前回は、5ドルだったが、7ドルに値上げされていた。

 

そして、タクシーに乗り込む。

ところが、行き先を告げると、また、10ドルというのである。

街中であれば、どこでも、7ドルのはず。

 

ノーノーノー

すると、運転手が、メーターで行くという。

オッケー

メーターならば、いいと思った。

 

すると、また、運転手が、7ドルに戻した。

 

メーターだと、結局、ドル換算すると、5ドル程度なのだ。それを、後で知る。

 

私は、コータに、英語で、何故、7ドルから、10ドル、そして、メーター、さらに、7ドルとなるのかと、言わせた。

 

今度は、運転手が、しどろもどろになった。

 

オッケー、メーターと、私が言う。

 

結果は、ドンで支払うことになり、ドル換算で、5ドルである。

 

こういう、事態が疲れるのである。

 

空港へ戻る時は、矢張り、メーターということで、タクシーに乗った。

その運転手は、何も言わず、メーターで走ったので、私は、お釣りをチップとして、渡した。非常に感謝された。

 

一概に、ベトナム人云々とは、言えないのである。

人それぞれである。

 

良い人もいれば、悪い人もいる。

 

道は、相変わらず、車と、オートバイで、混雑していた。

向こう側に渡るには、決死の覚悟である。

 

川クルーズの船が多く留まる、岸に出た。

 

中々、慰霊の場所が無い。

そこで、一隻の、クルーズ船の乗り場が広いので、そこで、行うことにした。

 

街路樹から、一本の枝を取り、御幣を作る。

 

準備は、それだけ。

それで、しばし、黙祷し、祝詞を唱える。

風が、変わる。

場の空気が、変わる。

 

その日、6月23日は、沖縄慰霊の日でもある。

そこで、私は、沖縄にも、想念を向けた。

 

ゆっくりと、祝詞を唱える。

 

クルーズ船の乗り場だが、誰も、邪魔する者は、いない。

じっくりと、黙祷して、御幣を川に投げ入れた。

 

すると、何と、御幣は、すーっと、沈む。

あらっ

あらららっ

 

前回は、流れたのに。

 

それに、同じような枝が、流れているのである。

重たいのである。

矢張り、霊位の重たさがあるのである。

 

沖縄に行かなければならない。

九月に、沖縄慰霊の計画である。

 

しばし、サイゴン川を見つめていた。

コータが、コーヒーを飲もうというので、その場から離れた。

 

川縁にある、オープンカフェで、コーヒーを注文した。

 

濃くて、甘い、ベトナムコーヒーである。

 

何とも言えぬ気分。

足りないのである。慰霊の思いが、足りない。

もっと、多くの人の、思いが必要である。

 

霊位は、人の思いを頂く。

 

カフエに暫くいたが、以前泊まったホテルに近くに向かった。

そこからなら、タクシーも、拾える。

また、顔見知りの人もいるかもしれない。

 

露天の店の椅子に腰掛けた。

私は、イカを炙ってもらった。

コータは、ビールを注文する。

私は、近くのコンビニに、水を買いに歩いた。水の値段は、コンビニが一番安いのは、ホーチミンも同じ。

 

物売りが、次から次と来る。相手にすると、一斉に来ることが解っているが、無視出来ない。

 

一人の赤ん坊を抱いた女が、来た。

私は、一足だけ持っていた、赤ん坊の靴下を取り出し、その子に、履かせた。

周囲の人が見ている。

 

そして、子供の物売りには、5000ドンを渡す。約、50円ほどである。

 

シンガポールから来たという、若者と、英語で少し話し、そろそろ、時間だと、別れた。

彼は、綺麗過ぎるシンガポールより、ホーチミンの方が好きだと言う。人それぞれである。

 

出国もスムーズで、飛行機も、墜落することなく、成田に着いた。

 

日本の風は、涼しい。

 

この旅をまた、繰り返すのである。