木村天山旅日記

  レイテ慰霊

  平成21年9月 

 

レイテ慰霊 第5話

フロントに、明日チェックアウトすることにした。

受付の女の子が、オーナーに後で言いますと、答えた。

 

それから、私は、外に出た。

西側の、港に向かった。

 

歩いてすぐである。

凄い、混雑振りである。

まず、ジプニー乗り場があり、その先は、露天の店が並ぶ。

 

私は、港沿いに、賑やかな方に向かった。

御幣を流すためである。

海岸線を歩いたが、港の海は、汚くて、臭い。

 

歩き続けて、掘っ立て小屋が建つ場所を、通過した。

そこに、住む人々がいる。

次第に、全貌が、見えてきた。

 

海に近づくと、少年が、水にしゃがんでいる。

よく見ると、尻を洗っている。

何と、そこで、糞をしているのである。

更に、小便をする者もいる。

 

つまり、便所替わりなのである、海が・・・

 

愕然とした。

そして、尻を拭いた少年が、立ち上がり、パンツを上げるところを、見た。

その少年の、パンツは、布を、両端で縛りつけているものである。

パンツではなかった。

 

少年と、目を合わせた。

ズボンも、穴が開いている。

ハーイと、声を掛けた。少年も、手を振る。

 

少し歩くと、一人の小学生くらいの、男の子が、小便をしていた。

ハーイと、声を掛けると、ハーイと、答える。

 

私は、兎に角、御幣を、細かくして、海に流した。

これでは、流すチャンスを失う。

 

そして、強い匂いがする方向に、歩いた。

市場に出た。

漁師たちが、捕った魚を売っている。

驚いたのは、カツオが上がっていたことである。

 

その他、色々な見たことの無い魚。

エビやイカもある。

 

威勢の良い売り子のおばさんたちに、私も、声を掛けられた。

ふっと、気づくと、先ほど、小便をしていた、男の子が、後ろにいる。

ああっと、声を掛けた。ニコッと、笑う。

 

そして、その子の、シャツと、ズボンを見て、着の身着のままであることを、知った。

 

すぐに、その子に、シャツと、ズボンを買ってやりたいと、思った。

ただ、買い物して、出ると、いなくなっていたりするので、その子が着いてくるまま、私は、路上の店に出た。

 

着いて来るのを確認して、シャツ売りの店の前に、立った。矢張り、着いてきている。

そして、彼に合うシャツを探して、それを、彼に示した。

プレゼントと、言うとが、いらないと、首を振る。

売り子の男の子たちが、お前、買って貰えと言っているように、聞こえた。

 

しかし、彼は、いらないと言う。

 

しかたがない。私は、諦めて、バイバイと言った。

そして、歩くと、また、着いて来る。

 

あららっ

 

鶏肉を焼いている店の前に、来た。そして、私は、彼に、食べると、日本語で、聞いた。すると、頷く。

矢張り、食べ物は、欲しいのだと、一つか、二つかと、聞くと、一つと言う。

一つ、12ペソである。私は、二つ買った。そして、そのまま、彼に渡した。

 

それで、また、バイバイと言って、私は、街中に向かって歩き出した。

 

すると、私の前を彼が、歩くではないか。

私は、ホテルに戻ろうと思った。

彼は、私に着いて来る。

 

まさかホテルまではと、思ったが、ついに、ホテルの前まで、着いて来た。

私は、部屋に来るかと、聞いた。

マイルーム カムと言った。すると、頷く。

 

フロントの女の子が、怪訝そうな顔をして、ユーフレンドと、聞くので、そうだと言った。すると、オッケーと、彼に言う。

 

階段を上がると、彼は、オーッと、声を出した。

こんなホテルでも、彼には、大そうな所に見えたのだろう。

 

部屋は、冷房が効いて、ひんやりとする。

私は、ドアを開けたまま、ドアに近い椅子に、彼を座らせた。

いつでも、彼が出て行けるようにである。

 

食べ物なら、受け取ると、思い、買い置きの、ビスケット、チーズ、みかんを、袋に入れて、渡した。

自己紹介した。

マイネーム ジャパニーズ テン

彼も、名前を言った。難しくて、覚えられなかった。

 

シャワーを浴びるかと、聞いた。

きっと、体を洗っていないだろうと、思ったからだ。

彼は、いいと、首を振る。そして、そろそろ、帰らなきゃと、言っているように、聞こえた。

そう、じゃあ、送るよ。

私は、彼を一階まで送り、見送った。

 

その後、フロントの女の子に、彼は、学校に行っているのかと、聞いた。

すると、あの子は、ストリートチルドレンよと、言う。

私は、ストリートチルドレンは、多いのかと、聞くと、沢山いると、言う。

 

どこにと尋ねると、市場を通り越した向こうだと、言うように聞こえた。

 

それから、私は、部屋に戻り、貴重品を持って、スーパーに向かった。

子供服を買い、それを持って、彼らの場所に行くためである。