マニラの悲劇・衣服支援 第6話
レイテ島から、マニラに戻り、三泊して、帰国する。
ところが、もう帰りたいと、思うのである。
見るものが、苦痛なのである。
朝、六時過ぎに、公園に向かって散歩する。
今まで、通らなかった、小路に入ってみる。
その小路で、寝ている人々。
ダンボールを敷いて、寝ている。
裸の子供が、寝ている。
家に住んでいるといっても、倒れそうな家。
洗濯物が、干してある。
雑巾のような衣類。
見るものが、情報となって、私の心を動かす。
目が覚めた人は、私に、手を伸ばす。
食べ物が欲しいのだ。
路上に寝ているせいか、両足が皮膚病になっている人もいる。
公園の前の、アメリカンフードの店で、19ペソのコーヒーを買い、タバコを吹かしていると、一人の男の子が、来た。
中学生くらいか。
英語で、ダンボールに何か書いている。
要するに、食べ物を下さいと、言うのだ。
私は、オッケーと言い、彼を近くの食堂に連れて行った。
すると、彼は、向こう側の道に声を掛けた。
その子の、父親がやって来た。
二人分の、ご飯である。
おかずを選び、ライスがつく。
一人分、50ペソ程度、二人で、ニ百円である。
男の子が、目で、感謝する。
父親は、もう、ご飯にしか、目がいかないようで、私を見ない。
腹が、空いて、尋常ではないのだ。
また、私は、公園に戻り、コーヒーを飲む。
物売りが来る。
実に、しつこい。
必要ないものを、買う気はないから、無視するが、なんとかこんとか、かんとかこんとか、そして、あんたら、こんたら・・・ずーつと、話し掛けてくる。
溜息をついて、場所を移動する。それでも、着いて来る人もいる。
一人の、女性に会った。
向こうから、声を掛けてきた。
日本語である。
どうして、日本語ができるの
カラオケで、働いていたの
今は
今は、おばさんになったから、もう、駄目
カラオケでは、皆、体を売る。
いくつ
40よ 私、マッサージするよ、部屋に行く
マッサージは、ロビンソンでしたよ
どうして、マニラに来たの
子供たちに、衣類を持ってきた
えー、ここには、沢山欲しい人いるよ。私の友達の子供たちも
そう、じゃあ、今度来たら、あなたに会いに来るよ
そうして
マッサージは
もう、マッサージは、いい
カラオケ店で、体を売っていた女が、年になると、仕事が無く、こうして、観光客に、マッサージをすると、勧誘する。
弱い者たちは、搾取されるので、働いても、お金を貯めることは、出来ない。
客から、得た金額の、三割しか、貰えない。そのようになっている、国なのだ。
レイテ島では、もっと、悲惨だった。
おばさんは、寂しく、今度来てね、と、去っていった。
私も、立ち上がり、ホテルに戻る。
また、別の小路を、歩いてみる。
路上で、食堂をしている、男がいた。
路上に、鍋を並べて、売るのである。
しかし、それさえも、買えない人が多い。
家族三人が、パンに、お粥のようなものを塗りつけて、食べていた。
母親が、私に笑いかける。
ああ、子供に衣服を上げた親である。
道端で、食べている。家がないのである。
シクロといって、自転車に荷台をつけて、人を乗せる仕事がある。
彼らの多くも、家がない。
その荷台に寝る、母親と幼児。
少し大きい子、二人の女の子が、父親と、ダンボールを敷いて寝ていた。
二人は、起きていた。
楽しそうである。
丁度、側に、店があったので、ビスケットを、二種類、二つずつ買って、渡した。
父親が目を覚まして、私に、礼を言う。
それから、父親は、私に毎日、挨拶する。
それが、大声で、私を、ボーイと、呼んで、手を振るのだ。
少し、恥ずかしい。ボーイといわれる年ではない。
こんなことを、書いていると、終わらないのである。
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