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カウンターテナー藤岡宣男について

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藤岡宣男の解説による、カウンターテナーについて

●カウンターテナーとは?

 変声期を過ぎ成人した男性で、訓練されたファルセット(いわゆる裏声)を用いて、女声のアルト、メゾ・ソプラノの声域を歌う歌手のこと。

●カストラートとカウンターテナー?

 第2次性徴前に去勢することによって声変わりを防ぎ、成人したのちも少年の声を保ったカストラートとは異なります。

 その昔、教会音楽の世界では女人禁制の時代が長くありました。したがってその慣習にしたがって、当時の声楽では、高声部は、

  1)声変わり前の少年(ボーイソプラノ)

  2)ファルセットでうたう成人男性(カウンターテナー)

  3)去勢して声変わりを防いだ成人男性(カストラート)

でまかなわれることが多かったのです。

 当時の人々は現代人とは異なり、高い声だから女性、低い声だから男性といった観念が薄く、逆に、輝かしくかつ、深みの高音(とくにアルト)にヒロイズムを感じたようです。たとえばヘンデルのオペラでは、ジュリアス・シーザーはアルト、モーツアルトの初期のオペラでも王子様役はたいていアルトやメゾでした。

 特にカストラートは、幼少の頃から、変声期に邪魔されることなく音楽の勉強と発声の訓練を続けることができたため、また、ホルモンの関係でからだが肥大化することで大きな楽器(胸郭など)を手に入れることができたため、抜群の声とテクニックを持つものも多く、17、18世紀にはオペラの世界で広く活躍しました。そのあたりのいろいろな事情については、映画「カストラート」で垣間見ることができます。まるで現代のヴィジュアル系バンドのように大人気でした。しかし、19世紀にはいり人道的見地からカストラートが衰退してからは、これらの役も女性が男装してズボン役として歌うことになってゆきます。

 一方、17、18世紀にカストラートの陰で、少し陰の薄かったカウンターテナーも、おもにイギリスではオラトリオなど教会音楽を中心に生き残りつづけていました。しかし、ロマン主義華やかなりしころのオペラ界ではより大きなホールで響き渡る大きな声が必要とされたため、かつてのカストラートの地位に取って代わることはできませんでした。

●再びカウンターテナー!

 とはいえ、カウンターテナーはマイナーな存在でありながらも、絶えず存在しつづけました。特に教会合唱音楽では重要な役割を果たし続けました。そして、第2次世界大戦後の古楽を見なおす動きのなかで、再び注目されてゆくことになるのです。フランスの歴史論、アナール派の影響をうけ、音楽の世界でも新しい考え方が台頭してきます。

「当時の人の使っていたものを実際に使って、当時の人の感性をものを見ようとしたとき、当時の音楽のニュアンスが見えてくる。そうしてこそ、現代とどう違うのか比較検討でき、演奏の可能性の追及ができる」

 こうして、カウンターテナーに再び光があたり始めたのです。

 現在では、カストラートはいませんから、その役目をカウンターテナーが担います。教会音楽、バロックオペラなどがおもな活躍の場です。また、現代ものではイギリスの作曲家ブリテンが好んで用い、「真夏の夜の夢」のオベロン、「ベニスに死す」のアポロなどで登場します。

 カウンターテナーはファルセットを駆使するわけですが、そのため一般的には、通常のテノールやソプラノと声帯筋の使い方(緊張度)が違い、声量の面ではどうしても、マリア・カラスやパバロッティーのようにはなれないと言われています。しかしながら、歌手によってはヨッヘン・コワルスキーのように、オペレッタ「こうもり」でオルロフスキー男爵を演じてしまえるような声量の歌手もあらわれていますし、ブライアン・アサワのように、まったくファルセットを感じさせない、自然なタイプの声質の歌手もいます。まさにカウンターテナーの声は十人十色。(アンソロジーのCD「カストラートの世界」(EMIクラシックス)等をきいていただくもの面白いと思います。)本来の古楽、バッハ、ヘンデル等以外にも、ドイツリート、現代曲、セミクラシカルとさまざまなジャンルでの活躍が期待されます。

●あなたもカウンターテナーに?

 ファルセットが出せないという男性もいますが、ファルセット自体は訓練で必ず出せるようになると思います。地声がバリトンのほうが楽にファルセットが出せるかもしれません。以前は多くのカウンターテナーがバリトンでした。しかし、低い音域で地声とファルセットを自然につなげるためには、地声がテナーのほうが有利でしょう。現在はテナー系のカウンターテナー歌手が増えています。

 発声法というものがそもそも科学的に解明されつくされていないのですから、カウンターテナーのための体系的な発声のメソッドもあるとは言えない現状です。しかしながら、よい教師のもとで呼吸法等からだの訓練を行い、声帯の使い方に関しては女声として学び、かつカウンターテナー特有のテクニック(地声とファルセットをつなげること)を行ってゆけば、発声的には道が開けるでしょう。

 カウンターテナーとして鑑賞に堪えうる声を持つということは、多くの偶然が重なって生じた声帯の器質的な特徴が大いに関係しています。ファルセットが魅力的な音質であり、響きが豊かで通ること。これは訓練とともに素質が大いに影響します。

 あなたもカウンターテナーをやってみませんか?

 そのときは発声だけでなく、「音楽」そのものをどう捕らえるか、その勉強もお忘れなく!

                                          (文責:藤岡宣男)

 

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