木村天山旅日記

トラック諸島慰霊の旅 平成20年1月

第二話

定刻通り、成田を午後八時40分に出発した。

グアムに向かう。グアムで、乗り継ぎするのだが、その待ち時間は、約八時間である。

 

グアムに到着したのは、深夜一時過ぎである。

それから、朝のチューク行き、8:20まで待つ。

 

グアムでは、一度入国審査を受ける。そして、更に、手荷物検査を受けるという、面倒さである。

乗り継ぎの場合は、そのまま、搭乗口に行けると思っていたが、それで、とんでもないことになる。

 

再度の、手荷物検査で、私の体が、どうしても、ビーと鳴ってしまうのだ。

何度、通っても、音が鳴る。

検査員の検査を受けることになり、通りの横にある、ブースに入る。

 

そこでも、棒が、反応する。

なんじゃ、これは。

検査員の鬼のような顔付きと、何度も、鳴る棒に、私は、キレた。

 

羽織を脱ぎ、日本は冬であるから、袷の厚い着物を脱ぎ、さらに、私は、逆上して、襦袢も脱いで、言った。

アイアム ジャパニーズ ジャパニーズスタイル インターナショナルスタイル

 

実は、私は、少し、寝ぼけていた。

深夜であるから、飛行機では、眠っていた。眠ったまま、入国審査を受けて、再度の、手荷物検査である。

スムーズに行かないことが、腹立たしいのである。

 

危険物など、持っている訳が無い。

それは、今まで、和服を着ていて、疑われることもなく、特別扱いのように、丁重に扱われていたせいもある。

 

同行の野中が、向こうから見ていた。

私が、パンツ一つの姿になった時、俄かに、検査員たちが、どよめいたという。そして、検査官ではなく、事務所の方から、警官も来たという。

大変なことになったようである。

つまり、検査のことではなく、別の刑法違反になるのだそうである。

裸になったことに、対してである。

 

一人の男が、何かを言う。

私は、野中の方を見た。

「特別室に、って、言っているよ」

 

私は、それを聞いて、襦袢、着物、羽織と、着た。

そして、どうなるのかを、待った。

すると、一人の女性が、私のチケットを、差し出して、どこかへ行けと言っているようである。私は、航空会社に行けと言われていると、思った。

イッ ヒァー

と、下を指差した。

女は、頷く。

 

でも、よく解らない。

すると、黒人の検査員が、私を連れた。

私のチケットを持って、また、別の職員に渡して、何かを言う。

特別室に、行くのではなかった。

 

何をするのか、解らないのである。

黒人は、職員に、何か言うが、職員は、私のチケットを見て、「ああ、まだ、時間あるねー」と、日本語で言う。

 

少しの間があった。

どうするのか。

 

すると、再び、黒人の検査員が戻ってきた。

そして、渡したチケットを、また、取り、私に「こっちにきて」と、日本語でいう。

 

後に続くと、「こっちにきて」とまた、言う。

そして、再び、手荷物検査の場所に行き、私を通した。

そして、また「こっちにきて」と言う。

 

ビニールで仕切られた、ブースに入った。

「上着を脱いで」と英語で言う。

更に、着物も、脱げという。

襦袢だけになると、棒を取り出して、私の体を検査し始めた。

今度は、どこに、あてても、音はならない。

前や後ろと、検査して、異常無しである。

 

オッケー

あの、騒ぎは、なんだったのか。

黒人の検査員は、神妙に、私に話しかけた。私は、頷いて聞いたが、何を言うのか、解らない。野中が、来て、黒人と、話した。

 

要するに、黒人は、私が、裸になったから、いけなかったという。検査員の言う通りに、従っていればよかったのだ、と。

 

野中が、また、おかしな、英語を言ったらしい。

彼は、心臓が悪いので、少しのことで、カーッとすると。しかし、黒人は、野中の、ハートというのを、心が、悪いと、勘違いしたようである。

 

そのせいか、黒人は、私に、子供に話すように、何やら、やさしく説教をしているようだった。勿論、意味は、解らない。

 

このことは、グアム空港の、話題になったようで、帰りに、矢張り、乗り継ぎの待ち時間を、レストランで、お茶を飲んでいると、警察官が行き来して、何と、私たちに、話しかけるではないか。

あの日の、人だねと、野中に言うのである。

 

あーあ、である。

一度で、覚えられたのである。

 

さて、兎に角、不愉快な気持ちで、私は、搭乗口のロビーに行き、薄い毛布を広げて、休むことにした。

まだ、誰もいない、搭乗口前のロビーで、寝るなどとは、初めての経験である。

 

実は、余計なことだが、私は、観光地に旅行するという、あの手の旅行が嫌いである。

何もかも、揃って、準備万端、それに、乗せられて、楽しんでいる雰囲気を、楽しむという旅行である。

パックツアーにあるものである。

グアム行きは、そういう、若者で、溢れていた。

それらの、会話を聞いていると、ホント、具合が悪くなる。

グアムは、すべて作られている島である。観光客の金を目当ての、あからさまな架空の観光地である。

勿論、否定はしない。

 

ただ、私の趣味に合わないだけである。

 

どうしても、グアム経由しかないので、仕方なく、乗るのである。

飛行機は、寝るのが、一番であるから、寝る。

 

搭乗口のロビーで、寝て、何度か起きた。トイレに立った。

野中は、椅子で、寝ている。

 

朝、六時を過ぎたあたりから、人がポツリポツリと、入ってきた。

それでも、体を横にしていた。

七時になると、俄然、人が溢れてきた。

私は、起き上がり、椅子に座ることにした。

 

飛行機は、定刻通りに、出発した。

晴天である。

海の上を飛ぶ。

チュークに近づいて、下を覗いて、驚いた。

環礁の島々の海の、美しさである。

 

自然の脅威に触れると、本当に感動という言葉のみになる。

美しさは、脅威である。

 

それぞれの島の、浅瀬が、エメラルドグリーンに、輝いている。

 

こんな、場所で、軍艦や、大砲、飛行機による、戦いが、行われたというのが、信じられなかった。

 

着陸する飛行機は、海面すれすれに、飛んだ。

くらくらと、機体が揺れる。海に突っ込むのではと、思われた。

しかし、無事、着陸した。