定刻通り、成田を午後八時40分に出発した。
グアムに向かう。グアムで、乗り継ぎするのだが、その待ち時間は、約八時間である。
グアムに到着したのは、深夜一時過ぎである。
それから、朝のチューク行き、8:20まで待つ。
グアムでは、一度入国審査を受ける。そして、更に、手荷物検査を受けるという、面倒さである。
乗り継ぎの場合は、そのまま、搭乗口に行けると思っていたが、それで、とんでもないことになる。
再度の、手荷物検査で、私の体が、どうしても、ビーと鳴ってしまうのだ。
何度、通っても、音が鳴る。
検査員の検査を受けることになり、通りの横にある、ブースに入る。
そこでも、棒が、反応する。
なんじゃ、これは。
検査員の鬼のような顔付きと、何度も、鳴る棒に、私は、キレた。
羽織を脱ぎ、日本は冬であるから、袷の厚い着物を脱ぎ、さらに、私は、逆上して、襦袢も脱いで、言った。
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実は、私は、少し、寝ぼけていた。
深夜であるから、飛行機では、眠っていた。眠ったまま、入国審査を受けて、再度の、手荷物検査である。
スムーズに行かないことが、腹立たしいのである。
危険物など、持っている訳が無い。
それは、今まで、和服を着ていて、疑われることもなく、特別扱いのように、丁重に扱われていたせいもある。
同行の野中が、向こうから見ていた。
私が、パンツ一つの姿になった時、俄かに、検査員たちが、どよめいたという。そして、検査官ではなく、事務所の方から、警官も来たという。
大変なことになったようである。
つまり、検査のことではなく、別の刑法違反になるのだそうである。
裸になったことに、対してである。
一人の男が、何かを言う。
私は、野中の方を見た。
「特別室に、って、言っているよ」
私は、それを聞いて、襦袢、着物、羽織と、着た。
そして、どうなるのかを、待った。
すると、一人の女性が、私のチケットを、差し出して、どこかへ行けと言っているようである。私は、航空会社に行けと言われていると、思った。
イッ ヒァー
と、下を指差した。
女は、頷く。
でも、よく解らない。
すると、黒人の検査員が、私を連れた。
私のチケットを持って、また、別の職員に渡して、何かを言う。
特別室に、行くのではなかった。
何をするのか、解らないのである。
黒人は、職員に、何か言うが、職員は、私のチケットを見て、「ああ、まだ、時間あるねー」と、日本語で言う。
少しの間があった。
どうするのか。
すると、再び、黒人の検査員が戻ってきた。
そして、渡したチケットを、また、取り、私に「こっちにきて」と、日本語でいう。
後に続くと、「こっちにきて」とまた、言う。
そして、再び、手荷物検査の場所に行き、私を通した。
そして、また「こっちにきて」と言う。
ビニールで仕切られた、ブースに入った。
「上着を脱いで」と英語で言う。
更に、着物も、脱げという。
襦袢だけになると、棒を取り出して、私の体を検査し始めた。
今度は、どこに、あてても、音はならない。
前や後ろと、検査して、異常無しである。
オッケー
あの、騒ぎは、なんだったのか。
黒人の検査員は、神妙に、私に話しかけた。私は、頷いて聞いたが、何を言うのか、解らない。野中が、来て、黒人と、話した。
要するに、黒人は、私が、裸になったから、いけなかったという。検査員の言う通りに、従っていればよかったのだ、と。
野中が、また、おかしな、英語を言ったらしい。
彼は、心臓が悪いので、少しのことで、カーッとすると。しかし、黒人は、野中の、ハートというのを、心が、悪いと、勘違いしたようである。
そのせいか、黒人は、私に、子供に話すように、何やら、やさしく説教をしているようだった。勿論、意味は、解らない。
このことは、グアム空港の、話題になったようで、帰りに、矢張り、乗り継ぎの待ち時間を、レストランで、お茶を飲んでいると、警察官が行き来して、何と、私たちに、話しかけるではないか。
あの日の、人だねと、野中に言うのである。
あーあ、である。
一度で、覚えられたのである。
さて、兎に角、不愉快な気持ちで、私は、搭乗口のロビーに行き、薄い毛布を広げて、休むことにした。
まだ、誰もいない、搭乗口前のロビーで、寝るなどとは、初めての経験である。
実は、余計なことだが、私は、観光地に旅行するという、あの手の旅行が嫌いである。
何もかも、揃って、準備万端、それに、乗せられて、楽しんでいる雰囲気を、楽しむという旅行である。
パックツアーにあるものである。
グアム行きは、そういう、若者で、溢れていた。
それらの、会話を聞いていると、ホント、具合が悪くなる。
グアムは、すべて作られている島である。観光客の金を目当ての、あからさまな架空の観光地である。
勿論、否定はしない。
ただ、私の趣味に合わないだけである。
どうしても、グアム経由しかないので、仕方なく、乗るのである。
飛行機は、寝るのが、一番であるから、寝る。
搭乗口のロビーで、寝て、何度か起きた。トイレに立った。
野中は、椅子で、寝ている。
朝、六時を過ぎたあたりから、人がポツリポツリと、入ってきた。
それでも、体を横にしていた。
七時になると、俄然、人が溢れてきた。
私は、起き上がり、椅子に座ることにした。
飛行機は、定刻通りに、出発した。
晴天である。
海の上を飛ぶ。
チュークに近づいて、下を覗いて、驚いた。
環礁の島々の海の、美しさである。
自然の脅威に触れると、本当に感動という言葉のみになる。
美しさは、脅威である。
それぞれの島の、浅瀬が、エメラルドグリーンに、輝いている。
こんな、場所で、軍艦や、大砲、飛行機による、戦いが、行われたというのが、信じられなかった。
着陸する飛行機は、海面すれすれに、飛んだ。
くらくらと、機体が揺れる。海に突っ込むのではと、思われた。
しかし、無事、着陸した。
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