見渡すと、バラック小屋が多い。
手作りの小屋である。
野中の後を、歩いた。
昨日来たと言う、村に向かっている。
まず、昨日ご馳走してくれた、村の主の家に行く。
丁度、主人が寝ていた。
声を掛けると、家族皆が、出てきた。
野中が、お礼を言い、プレゼントを持ってきたと言うと、食べ物かと、問う。
私たちは、タバコを五箱買っていた。
現地のタバコである。
それでも、喜んで、受け取ってくれた。
息子と思える男の子から、小さな子まで出て来たので、写真を撮る。
再び、道路に出て、先を歩いた。
ガイド役をしてくれた子の家に向かった。
ところが、野中の記憶が、曖昧で、立ち止まった。
その時、声を掛けられた。
コーヒー、コーヒーと言う男がいる。
野中は、声を上げた。昨日逢った男だった。
私たちは、コーヒーを頼んだ。
一杯、25セントである。集った人にも、ご馳走することになり、四つ、注文した。
男は、そこに、腰掛けてくれと言う。
手作りの、棒で出来た、椅子である。
横には、子供が、裸で寝ていた。
どんどんと、人が集まってくる。子供たちも来た。
私は、パンを食べようと、袋から取り出すと、野中が、まず、こちらが食べてから、皆に渡すといいと言う。
そのようにした。すると、渡した者が、他の者に、分け与えるのである。
子供にも、渡す。すると、その子は、他の子に、半分、分け与える。
それが、自然なのである。
こんな、風景は、見たことがない。
私は、すべてのパンを、皆に与えた。それが、次々と、人から人へと、渡るのである。
こういう、礼儀は、自然に出来上がったものなのだろう。
その内に、ガイド役の子が来た。ジュニオという、名だった。
13歳で、小学校の七年生である。日本だと、中学一年生である。
だが、日本の子供より、小さい。日本の10歳程度の子供のようだ。
野中が、ジュニオに、Tシャツを渡す。
ウァーと、声を上げて喜んだ。
さらに、私のものも、渡す。
ジュニオは、二枚のTシャツを、両肩に掛けた。
その間にも、子供たちが、大勢、集ってきた。
コーヒーを飲み、主人と、話をした。
その中で、私は、子供服などは、どうしているのかと、訊いた。
無いという。
確かに、小さな子は、裸だった。
お金が無いので、皆、出稼ぎに行っている家族や親戚から、送ってくるのである。
着の身着のままである。
私は、次に来る時、子供服を持ってくると言うと、近くにいた、大人が、皆、お礼の言葉を言う。それが、本当に、心ある言葉なのである。
意味がよく解らないが、何を言うのかは、理解した。
主人が、村を案内すると言う。
そこで、私たちは、お願いした。
しかし、それがまた、大変なことになるのだ。
山の中を行く。道無き道を行くといった、感じである。
子供たちも、着いて来た。
彼らには、当たり前だが、私には、山道である。
すぐに、汗だくになった。何度も、着物の、袖で、汗を拭いた。そして、また、汗が出る。
遂に、山の上まで来た。
そこにも、家があるという、驚き。
そして、山の上の風である。その、心地の良さは、格別だった。
その家の、おばあさんが、木の元に、ゴザを敷いて、寝ていた。
私たちが行くと、起き上がり、笑顔で挨拶する。
すぐに、日本人だと、解ったのは、私の着物である。
歓迎に、小さなミカン、日本で言うと、カボスに似たものを、出してくれた。
それは、酢のように、すっぱい。
皆で、それを、食べた。
その家の子も、出て来た。
暫くすると、その家の子が、主人に何か言う。
向こうに、日本軍の大砲があるというのだ。それを、私たちに見せたいと言う。
野中が、着物で、行けるかと、訊くと、大丈夫だと言う。しかし、付いて行くと、そこは、ジャングルである。
引き返すことも出来ず、私は、皆に付いて行った。
だが、主人も、子供たちも、兎に角、親切である。
足場の悪いところを、整えて、私を歩かせる。手を取る子もいる。
漸く、日本軍の要塞を発見し、大砲を見た。
その付近には、大きな穴が多くあった。攻撃された跡だと言う。
肩で、息をしつつ、写真を撮った。
そして、そこからの眺めである。絶景だった。
子供たちには、山が、庭のようなものである。
その有様にも、感動した。
大砲に上がる子供たちである。
誘われたが、私は、上がらなかった。
下から、見上げるだけである。
戦争当時の様を、想像した。
ここで、毎日、敵を発見しては、攻撃していたのであろう。
山の上に、要塞を築き、大砲を設置しての、苦労を思った。
そして、戦争とは、何と無益なことかと、溜息をついた。
また、誰も日本人が、こんな所まで来て、見ることは、ないだろうと思えた。
貴重な資料である。
暫くして、戻ることにした。
子供たちの身に軽さは、脅威であった。
しかし、私を先に先にと、歩かせる。
必ず先導する子がいる。
最初の山の上に戻った。
私は、子供たちの人数を訊いた。
七名である。
一人、二ドルを渡すことにした。
一人の子に、それを渡すと、その子は、満面の笑みを浮かべた。
感謝の気持ちである。
そして、主人には、案内のお礼として、20ドルを渡した。
少し休み、下山することにする。
主人が、折角なので、私の家族に会ってくれと言う。
私は、オッケーと、答えた。
主人の家は、山の中腹にある。
奥さんが、赤ん坊を抱き、二人の娘がいた。
一間の小屋で生活している。
どんな風に寝ているのか、想像がつかないのである。
実に、貴重な体験をして、私たちは、皆と、別れた。
ジュニオだけは、ホテルまで、着いて来ると言うので、三人でホテルへの道を歩いた。
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