木村天山旅日記

 

アボリジニへの旅
平成20年7月 

 

第3話

ようやく、ケアンズから去る日である。

チェックアウトが、朝十時である。

アーネムランド・ゴーブ行き飛行機は、夕方の六時である。

 

それまでの時間を、過ごすために、私たちは、バス乗り場の前にある、オーキッドプラザというビルの、二階に出た。

そこには、屋台の食べ物屋があり、私の好きな、おにぎり屋もあった。

 

食べきれなかった食料を持って、夕方、四時まで、過ごす予定である。

 

その辺りが、街の中心である。

繁華街である。

向かい側には、夜になると、開店するバーが、並んでいる。

私は、その一軒に、昨日出掛けた。

 

一番外れの、ゲイバーである。

ふらふらと、入ったバーであり、極々普通の店であった。ただ、内装が、凝っていて、豪華であった。

入ると、まず、一段階の部屋、そして、中の部屋、更に、奥の部屋があった。

 

私は、タイパンツと、Tシャツである。

店に入っても、何も言われない。

しばらく、店の中を見学して、ようやく、カウンターに行き、ウイスキーを注文した。勿論、メニューを見て、10ドルのウイスキーを示して、ウォーターと、加えた。

水割りという意味で、言うが、素敵なボーイさんは、シングルのウイスキーに、氷を入れて、私の前で、酒を計る小さなカップで、私を見ながら、水を少しづつ入れる。

オッケーオッケーと、言いつつ、私は、全部入れてもらった。それでも、水は、足りないが、もう、面倒で、それを、貰った。

 

適当に好きな場所に、座って飲む。

最初は、色々な椅子に、腰掛けてみた。

タバコが吸いたくなり、別のボーイに、ノースモーキングと、声を掛けると、ペラペラと、喋る。つまり、ここは、禁煙というのである。

私は、店から出て、外の席に座った。

 

そこで、タバコに火を点けた。

少しすると、警備のボーイが、何やら言う。

禁煙ブースだった。

そこで、グラスを持って、タバコを吸いつつ、水割りを飲もうとすると、また、警備のボーイが、何やら言う。

飲みながら、吸うなということだと思い、グラスを、テーブルに置いた。

そして、オッケーと、訊いた。

オッケーである。何か、決まりがあるのだろう。

 

ケアンズも、アルコールに関しては、結構厳しいものがある。

野中が、深夜出掛けて、ヨーロッパから来た、若者たちと、ビールなどを飲んでいると、警察が来て、ここは、飲む所ではないと、散らされたという。

一人の、ドイツ人の若者が、警察に、僕たちは、お金がない。店で、飲むような、金持ちではないから、ここで飲んでいると、勇気を持って言ったと、野中が、話していた。

 

警察は、騒ぐなよと、言って、その場は、収まったという。

アル中が多いのである。

実は、それには、訳がある。

アル中になるのは、大半がアボリジニたちである。

これについても、後で書く。

 

ゴーブでは、もっと、厳しかった。

午後二時から、酒の販売を開始し、八時で、終わる。そして、酒を買うためには、許可書を得なければならない。

私は、面倒なので、酒を飲むのを、止めた。

三日間の禁酒だった。

 

最初、そのバーは、ゲイバーには、見えなかった。

男女のカップルも多かったからである。

しかし、再度店に入り、中の部屋に入り、二人の男の、カップルの様子を見て、理解した。

腕を絡ませて、キスをするのである。

 

しかし、誰も気にしない。

男女のカップルも、平然としている。

そこで、私は、店の入り口に立つ、警備のボーイに、訊きに出た。

 

ここは、ゲイバーと、訊いた。

イエス。

あんたは、ゲイ。

ノー。

この辺は、ゲイバーなの。

いや、ここだけ。

 

そして、私はまた、店内に入った。

今度は、たっぷりとした、ソファーに座り、観察である。

 

そして、驚いた。

ある、ブースには、垂れ幕がかかり、その中が見えない。しかし、次々と、女が、入って行くのである。

非常に興味があった。

その中を、覗きたいという欲求である。

 

暫く、その、幕を見ていた。

チャンスが来た。

ボーイが、物を運んで入るとき、その、幕を大きく開けた。

仰天した。

中には、女が、一杯なのである。

 

ホント、女だらけ。ゲイバーである。つまり、レズの皆様である。

それが、男同士などより、断然多い。

その中は、女で溢れているのである。

アラアラ、言葉無く絶句した。

 

どうりで、色々着飾った女たちが、続々と入って行くのであった。

 

何かの、パーティーでもない。

レズの多いケアンズという、イメージが、強く強くなった。

 

私は、水割りを飲み終えて、ほろ酔いで、モーテルに帰った。

ゆっくりと、歩いた。

もう、ウイスキーなどは、合わないと知った。

日本酒が、一番いい。

 

広場には、警察の車が、止まっている。

監視しているのだ。

 

多くの店の明かりも、消えて、街灯の明かりの中を、とぼとぼと、歩いた。

 

ケアンズ、最後の夜であり、もう、二度と来ない街である。

 

珍しく、野中が、すでに寝ていた。

私は、シャワーを浴びて、歌を書き付けた。

 

いよいよ、明日は、アーネムランドのゴーブである。

ほとんどの人は、知らない街である。

アボリジニ、イダキ、ディジュルドゥに、興味を持つ人のみが、聖地として、崇める街である。

 

これから、エッセイとして、オーストラリアの歴史、そして、アボリジニの問題を、書くことにする。

たが、焦らない。

ゆっくりと、順々に書いてゆく。