木村天山旅日記
 ゴールデントライアングルへ
 
平成20年
 10月
 

 第7話

ゴールデントライアングルには、泊まらず、ソンテウで30分程の、チェンセーンという街に宿泊するため、ソンテウ乗り場で待つ。

 

この辺りには、超高級ホテルがある。

8400バーツというから、25000円以上である。日本の高級ホテルに似る。

2000バーツ程度のホテルもあるが、約6000円以上である。

日本のビジネスホテルより安いが、現地の感覚にすると、高級ホテルである。

 

日本人の姿もあり、きっと、その辺りのホテルに宿泊しているのだろう。

旅の目的が違うので、当たり前であるが、国境を流れる河の流れを、部屋から眺めて、ゆったりとしているのであろうと、思える。

 

さて、私たちは、ソンテウに乗り込み、チェンセーンに向かった。

メコン河沿いにある町である。

向こうに、ラオスが見える。

 

乗り場に降りて、ゲストハウスの場所に向かった。

小さな町であり、ゲストハウスは、二件のみ。

河沿いの道にある、ゲストハウスである。

出迎えたのは、犬。

 

誰も客がいないようである。

少し疲れているような、おばさんが出て来た。

ワンルーム、ツーベッドと言うと、部屋に案内した。

一階にある、ゲストハウスの裏側になる。

 

部屋に入ると、匂いがする。

カビの匂いと、犬の匂いである。

スタッフの野中が、別の部屋も見せてくれという。

すると、ワンベッドルームだという。オッケー。ワンベッドルームは、ダブルベッドである。

 

別棟に当たる二階の部屋である。

匂いが無い。

ここに決めた。

350バーツである。約千円である。

この辺りでは、高い価格である。

 

ところが、夜になると、どんどんと客が増えて、ゲストハウスが一杯になった。

寝るためだけに、泊まるという、タイ人が多かった。

中には、白人とタイ人の女性カップルである。

これは、よく見かける。タイでの、擬似恋愛である。女性を一ヶ月キープして、旅を続ける。セックス付き、通訳、お世話である。

 

荷物を置いて、すぐにシャワーを浴びた。

兎に角、汗だくだったのである。

襦袢も、着物も、汗だくで、すぐに干した。

着物は、汗の形がついて、もう着られない状態である。

 

絹の襦袢であるが、チェンマイで、洗濯に出すことにした。

しかし、一度、汗を乾かす。

 

温シャワーであるから、良かった。

トイレも一緒で、ペーパーは無い。大きな水盥がある。

つまり、手動の水洗である。

 

東南アジアからインドなどでは、左手は、不浄の手とされるのは、尻を洗うからである。しかし、尻を洗って不浄とは、ならない。実に、合理的、エコである。

私は、尻を洗った手のみを、石鹸で洗う。それで、おしまい。

 

タイパンツに穿き替えて、川沿いのある、マッサージを受けることにした。

川風に、吹かれて、気持ちよさそうである。

180バーツと安い。一時間の、タイマッサージである。

 

野中と並んで受けたが、マッサージ嬢が、色々と質問してくる。

タイ語と、英語で、話す。

よく解らないことは、笑って済ます。

 

夕暮れ時である。

そのまま、ソンテウを降りた、場所にある、市場に向かった。

市場に入り、どんな物があるのか、一通り見て回る。

もう、どんな物でも、驚かない。

生きた蛙が、売られていた。

それを、売っていたおばさんの顔が、実に蛙に似ていたから、それに、驚いた。

 

人間は毎日、見ている物に影響される。

それに、似てくる。

何を見るかということは、自分が何に似るかということ、である。

 

三本で、20バーツの、茹でとうきびを買った。

そして、道に出て、屋台の麺を食べることにした。

白い太い麺を指差す。

ポークか、チキンかと、訊かれる。

ポークにした。

二人で、30バーツである。約100円。

 

そのまま、ゲストハウスに戻る。

すると、川沿いに、多くの屋台が出ていた。

実に長い、屋台の列である。

 

ゲストハウスの隣の寺に入り、一回りする。

小僧の寮がある。

本堂の中に入り、礼拝する。

どこの町に行っても、寺は立派である。

寺の入り口が、拡張するのか、工事が行われている。

 

タイは、小乗仏教である。

インド、ビルマを経て、仏の教えが伝播した。

ただし、多分にヒンドゥーの教えも、加味されている。

中には、ヒンドゥー教ではないかと思える、寺のあるが、仏教なのである。つまり、ヒンドゥーの神を、守護神として、置いている。

 

それについて書くのは、別の機会にする。

 

寺を出て、屋台を見て回る。

もう、部屋に戻れば、明日は、朝バスで、チェンライに行くのであるから、見納めである。

 

焼きポークを買い、ソムタムという、ハパイヤサラダを買った。

ソムタンは、辛くて美味しい。私には、キムチの感覚である。ハパイヤの歯ごたえがいい。

 

暫く、歩いて、屋台を見て周り、部屋に戻る。

すると、どの部屋も、人がいる。

驚いた。

 

一階の部屋は、どこも臭いのである。

到底、ここでは、寝られないという部屋である。

後で気づくが、もう一つのゲストハウスが新築だった。

値段も同じである。

ホテルは、一軒だけで、1200バーツである。

この田舎町では、高い。

 

もう二度と来ないであろう、街であるから、何とも複雑な心境である。

泊まり逃げである。

 

裸で、床に座っていた。すると、向かいの部屋に、女性が入って来た。きっと、私の姿を、一瞬でも、見たことだろう。嫌なものを、見たと思ったと、思う。

部屋に入ると、一番に、カーテンを引いた。

ところが、そのカーテン、途中で止まる。彼女は、何度も繰り返しているうちに、カーテンレールを壊してしまった。

私のせいだと、思った。

この裸体を見たくないがゆえに、頑張ってカーテンを引こうとして、壊してしまったのである。しかし、彼女は、根気よく、カーテンを全部閉めることが、出来た。

 

朝、その彼女に、挨拶すると、英語が出来るかと、訊かれて、イエスと答えたが、彼女が何を言っているのか、解らない。

寝ているスタッフに、なんとかが、こんとかって、何んだと、訊いた。

大きな雲が、何とかという。

大きな雲。

何言ってんの。

 

スタッフを起こして、彼女と話させた。

要するに、彼女の部屋のトイレに、大きな蜘蛛がいるという。

雲と、蜘蛛の、勘違い。

 

スタッフが、それなら、先生が得意だと、私を促す。

何で私が、得意なのか。

ゴキブリを手で、潰すことが出来ると、彼女に言ったと、後で聞いた。

 

結果、水を掛けて、蜘蛛を追い出した。

 

彼女は、ドイツ人である。一人旅。

実に、危険である。蜘蛛ごときで、キャーと言っていては、旅など、危ない。

これから、タイ南部に向かうというので、地図を持ち出して、色々と説明した。

彼女が行きたいという、南の町は、存在しないのである。

 

私たちは、サムイ島への、行き方を教えた。

バンコクから、飛行機に乗り、スラー・タニーまで行き、空港前で、バス、船のチケットを買ってしまうのだというと、解ったようである。

 

ところが、彼女は、美人である。

サムイ島では、イギリス人の女性が、暴行され、殺されている。丁度、私たちが、出掛けていた時である。

観光地化されて、多くの人が集うと、犯罪も多くなる。

 

しかし、それを、覚悟で、旅をしているのだろう。

今度は、日本にも、来てくださいと、言うが、私の英語が通じない。

スタッフが言い直して、通じた。

 

二度と逢わない縁もある。

 

さて、私たちは、地元の人が乗る、バスに乗り、チェンライまで行くことにした。

チェンライからは、VIPバスに乗り換える。

その、地元のバスは、驚くべきバスであった。

一時間半、揺られ揺られて、車酔いという、遠い昔の記憶を思い出したほど。

 

扉は、開け放して走る。

ローカル線のバスは、面白いが、兎に角、二度と乗りたくないと、思った。

風景も、空気もいいが、あの、振動には、耐えられない。

降りたり、乗ったりする人々。止まる度に、眩暈がした。

そのバスは、二度、警察の検査が、入った。