父の死を聞いても、どうすることも出来ない。
駆けつけようにも、タイの滞在期間が、三日間ある。
四日、通夜、五日、葬儀である。
そのまま、戻っても、葬儀に間に合うか、どうかである。
札幌から、バスで三時間かかる、日本海側の田舎町である。
看取ったのが、母と弟だということで、幸せな最期だったと、思う。
太陽が、日差しを出したので、祝詞を唱える。
日本の伝統は、死ぬとは言わない。
隠れるという。
更に、崩、神上がり、かむあがり、という。
カミではない。
カムである。
アイヌも、カムイと呼ぶ。
崩御とは、天皇に対しての死去の、敬語である。
国民は、崩、かむあがり、なのである。
そして、命、ミコト、と呼ばれる。
ミコトは、御言である。
言霊の国、日本の面目といえる。
つまり、隠れた命は、言霊によって、成るものとなる。
言霊は、音霊によって、成り立ち、さらに、数霊、かずたま、によって、成り立つ。
古語で、数を数えることも、そのまま、祈りになるのである。
言霊について書くと、終わらなくなるので、いずれの機会に、書くことにする。
ただ、簡単に言えば、大和言葉によるものである。
言挙げする、という、言い方をする。
海を、カイと読めば、漢語であり、うみ、と読めば、大和言葉になる。
訓読みで、大和言葉になるのである。
宴は、エンと、読めば、漢語であり、とよのあかり、と読めば、大和言葉になる。
大和言葉とは、古からの、言挙げである。
言葉にすることによって、物事が成るという、考え方である。
しかし、アメリカ型の成功哲学にある、思いは実現するというような、ものではない。
あちらの、成功哲学は、多分に、魔の境地が、混入する。
要するに、自分が良ければいいのである。
全体の、幸せよりも、我の幸せである。
根本が全く違う。
天皇の、詔、みことのり、というお言葉は、国民の全体の、平安を願うという意味での、詔となる。
御言、宣り、なのである。
個人的なものを、超える。
その、御言宣り、により、国が成り立つという、考え方をしていた。
言葉は、実現するのである。
更に、音霊を、知らなければ、言霊を、知らないことになる。
日本語は、一音に意味がある。
母音に行き着く、子音であり、母音により、素晴らしく、美しい言葉が、生まれる。
純粋培養された、言葉の世界を有するのは、日本が、列島、島国ゆえである。
以下省略する。
人が死んでも、世の中は何の変化もしない。
泰然として、在る。
誰一人も、必要であるという、存在は無い。また、誰一人も、その存在が貴いという、絶対矛盾の存在が、人間である。
ただし、人の命は、地球より、重くはない。
実に、軽いものである。
命の尊さは、寿命の長さを言うのではない。
寿命と、命を、一緒くたにしないことである。
命とは、自然である。自然に戻ることを、人は、死ぬことと、観念した。
寿命は、生きている間のことで、それを、寿、ことぶき、と、考えた。つまり、有り難いことである。嬉しいことである。
生きているだけで、ことぶき、なのである。
言を、吹く、のである。更に、事を、吹くのである。
以下省略。
私は、その日も、マッサージに向かった。
いつも行くマッサージ店の、知り合いの、嬢が中々店にいなくて、三度出掛け、戻って、四度目に、ようやく、いた。
私が行くマッサージでは、最も、安い店である。
一時間の、タイマッサージが、100バーツ、約300円である。
オイルマッサージは、一時間、200バーツである。
その嬢は、母子家庭で、7歳の女の子がいる。
中々店にいなかった理由は、仕事を掛け持ちしているゆえだった。
漸く、逢えて、向こうも、歓迎してくれた。
丁度、マンゴーを食べていた最中で、それを、ご馳走になった。
たどたどしい、英語で、近況を話す。
いつ来たの。いつまで、いるの。どこに行ったの。
単語を並べた英語の会話をする。
新しい、マッサージ嬢も、沢山いた。
入れ替わりが、激しいと言う。
真っ当な、マッサージをしていると、生活出来ないというのが、実情である。
故に、田舎から、出来ても、帰る者も多い。
特に、東北、イサーンから、出て来る者が多い。
しかし、田舎に帰れるのである。日本では、田舎に帰っても、仕事がないので、どうしても、都会で、暮らすしかない。
今は、新しい貧しさが、都会を、覆っている。
働いても、収入が少ない。正社員になれない。アルバイトや、パート、派遣社員として、働く。
どちらが、良いのかは、価値観であるが、タイの方が、田舎に戻っても、食べることは、出来る。農家を手伝っていれば、最低限、食うことは、出来るのである。
さて、私は、オイルマッサージを、頼んだ。
辺りは、マッサージ店の激戦区である。
200バーツは、安い。250、300バーツが、普通である。
二階の部屋に上がる。
カーテンで、個室を作り、全裸で、受ける。
腰巻の、バスタオル一枚である。
私の横でも、白人が、オイルマッサージを始めていた。
夜は、ナイトバザールでも、働いているというが、内容は、聞けなかった。尋ねても、マッサージと言うだろうと、思えた。売り子をしているのかもしれない。
ナイトバザールでも、路上で、マッサージを商売にする人々がいる。
雨が降れば、出来ないのである。
足からオイルで、上半身に上がってくる。
以前より、力が入り、巧くなっている。
時々、片言の英語で話すが、こちらが、次第に眠くなる。
その内に、記憶が、遠のくのである。
トントンと、肩を叩かれて、背後が終わって、次は、仰向けである。
足の付け根は、タオルの中に手を入れて、股間、ぎりぎりまで、入ってくる。
リンパマッサージである。
以外に知られていないのが、腹のマッサージである。
腹は、実に、いい。
右回りで、腹を撫でる。更に、腹の両筋を、押す、撫でる。
腹が固い人は、相当、ストレスが溜まっている。
そして、胸である。
両脇のリンパを、特に丁寧にする。
胸の脇は、痛みを感じる。それは、肩の凝りなのである。
そして、腕である。腕が軽くなると、肩凝りも、改善される。
時々、彼女が、オッケーかと、尋く。オッケーと、答えて、マッサージが進む。
彼女がいないので、他のマッサージに行き、嫌な思いをした。
私は、白人ではないからだと、思った。
その、マッサージ嬢は、私にオイルマッサージをしていても、白人が入ってくると、何かと声を掛けていた。
つまり、白人に気に入られて、一日でも、二日でも、店から、買い上げて貰いたいのである。そして、更に、お手当てを貰う。
私は、それを、野中から、聞いた。
友人のレディボーイが、勤めている店でも、一ヶ月マッサージ嬢を、キープする欧米人がいるという。
気に入られれば、キープされて、大枚な、金を得ることもある。勿論、体の関係である。
普通にマッサージをしていては、金にならないのである。
彼女たちの、手取りは、料金の三割程度である。
やっと、暮らせるか、暮らせないかの、賃金で、客がなければ、収入は無い。
それを知ると、必ずチップをあげるようになる。
20,40,50バーツが相場だ。
それで、客の性処理をして、500バーツから、1000バーツのチップを貰う者もいる。
男の客に、積極的に、刺激を与えて、そのように、持ってゆく嬢もいるのである。
刺激反応で、男は、勃起する。それを、察して、性処理を持ちかける。
耳元で、相手を見て、チップを決める。
そうでもしなければ、金を得ることが出来ないのである。
生活するために、必死なのである。
生活するということは、大変なことである。
どこの国でも、同じ。
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