木村天山旅日


 

  バリ島再考の旅
  
平成21年
  2月
 

 第7話

何度も、クタ地区には来ているが、そこで、衣服を配るということは、考えなかった。

歓楽街であり、観光客が、一番多い地区である。

 

昨年は、子供服を、ウブドゥの村の学校で、差し上げたのみ。

バリ島での、支援は、二度目である。

 

兎に角、本日は、慰霊の儀を執り行ったので、明日は、ゆっくりと過ごす予定だった。

まず、夜の食事である。

ベッドが二つの部屋である。

 

エアコンが壊れていて、それを直しにボーイが、入れ替わり部屋に来た。

その一人のボーイが、面白いことを言う。

 

私に、バリガールは、好きですかと、尋ねる。

うん、まあー、好きですね。

すると、一時間、30万ルピアですという。つまり、売春斡旋である。

私が、連絡して、コンタクトします、である。

へーえ、と、私は、感心した。

 

そして、いつもの癖で、ところで、ボーイは、幾らと、尋いた。

すると、何と、私の知り合いがいます。

一時間、50万ルピアで、手配しますと、言うではないか。

 

そこで、また、私は、あなたがいい、あなたは、幾らかと、尋いた。

すると、ノー、私は、本当の男です、というようなことを言った。

英語であるから、何となく、理解した。

例え、彼が体を売っていたとしても、ホテルの客には、売らないだろうと、思えた。それが、バレると、首であろう。

 

私が、驚いたのは、女の子が、30万ルピアで、男の子が、50万ルピアということである。

何故、男の方が高いのか。

 

彼は、何度か、私に、打診した。

明日にしますか。

うんうん、必要なら、頼むから、ねー、というような、ことを、英語で言った。

 

このホテルの、ボーイから、掃除のボーイまでが、何かと斡旋するのである。

翌日、部屋の掃除に来た、ボーイは、ジンバランに行きますかと、尋ねるので、行く予定だと言うと、それなら、車の手配をしますと言う。

無料で、チャーターします。

しかし、それは、すぐに斡旋手数料を貰うものだと、知っていた。

 

後で、その斡旋手数料が、売り上げの、半額だと知って驚いた。

つまり、50万ルピアの食事をすると、彼には、半分の、25万ルピアが入るのである。

 

給料が、兎に角安いので、それらの、斡旋により、手数料稼ぎをするのである。

 

それにしても、いきなり、女の子を斡旋されるとは・・・

更に、男の子もである。

しかも、男の子の方が、20万ルピアも高い。

これは、何やら、調査が必要だと、コータに話した。

 

コータの方も、新しい情報を得ていた。

スミニャックに、新しいゲイバーが、二軒出来たそうである。

バリ島で、友人になった、レディボーイに、聞いたという。

 

そこで、本日の食事は、スミニャックに出て、食事をしてから、そのゲイバーに出掛けることにした。

 

七時になったので、通りに出て、タクシーに乗った。

以前の、旅日記で、書いたが、タクシーは、日本人に吹っかける、つまり、ボルのである。

メーターを確認して、乗ることにしたが、今回は、皆、タクシーが、メーターを倒したので、驚いた。

まさか、前回、大声で、怒鳴り散らした成果が、表れたのかと、思うほどだった。

乗った、タクシーは、皆、メーターを倒したのである。

 

一切の、ボッタくりは、無かった。

実に、気持の良いものだった。

 

クタは、兎に角、売り込みの誘いが多く、辟易する。

後から、着いて来て、しつこく、勧誘する。

私は、慣れたので、無視である。

また、欧米人のように、ノーと、明確に言えば、引き下がる。

 

日本人は、ノーと、明確にしない性格で、よく、しつこく、付きまとわれている、日本人観光客を見た。

この暑さの中を、あれほど、しつこくされても、怒らないのは、日本人ばかりである。

 

ここで、変なことを、書くが、植民地が、長かった国の人は、西洋人の、高慢な態度に弱い。

こちらが、主人のように、振舞えば、つい、下僕のように、対応するという、癖が、何世代のちに、ついてしまったようである。

 

だから、失礼だと思うが、私も、そのように、振舞うことがある。

私は、あなたの、主人であるという、態度で、接すれば、相手は、怯む。

実に、傲慢な態度で、私自身好きになれないが、そうしなければ、後から、ずーっと、着いて、しつこく勧誘するのである。

 

両替、タクシー、車の手配、観光の勧誘などなと。

どこ行くの

何探している

ウブドゥ一日観光、安いよ

女捜すの

お元気ですか、何するの

兎に角、煩い。

 

スミニャックに入り、ジャパニーズレストランを目指した。

すると、タクシー運転手は、それなら、レギャンのある店の名前を言う。斡旋である。

いや、ここの、レストランだと言う。

一軒の、ジャパニーズレストランの前に止まる。

メーター通りの料金を支払う。

 

料金の、駆け引きで、疲れてしまうこと、多々ある。

それで、ガイドを雇い、面倒から、解放されたいと、思う日本人は、多い。

 

バリ島で、驚くのは、和食の店に、多くの欧米人が来ていることである。

ある店では、満席で、入れないこともあった。

そして、皆、箸を使い食べているのである。

今や、中華よりも、和食の時代に入ったようである。

 

勿論、バリ島の、和食であるから、へんてこりんなものも、ある。

私はかけ蕎麦を、コータは、天ぷら蕎麦を注文した。

コータの天ぷらを、少し貰い、天ぷら蕎麦にして食べた。

 

和食の店は、高級レストランと、同じ価格である。

決して安くはない。

ビール一本を、二人で飲んで、蕎麦を食べて、私は、疲れた。

案の定、もう、ゲイバーに出掛ける気力がなくなった。

 

いつも、勇んで、出掛けるが、いつも、取りやめである。

コータに、ホテルに戻ると言うと、またかと、じゃあ、一緒に戻って、もう一度、出直すという。

 

大体、こちらの店の時間帯は、十時からである。

そんな時間から、酒を飲んでいられる、気力は無い。

 

ホテルに着くと、九時を過ぎでいた。

シャワーを浴びると、ベッドに横になる。

そして、そのまま、寝ることになる。

 

このホテルは、安全だから、部屋の鍵を開けたまま、寝た。

コータが帰っても、入れるようにだ。

 

しかし、コータが戻ると、必ず目が覚める。

日本にいる時は、そんなことはないが、きっと、どこかで、気を使っているのだ。

誰かが、部屋に入って来たら、きっと、目が覚めると、思う。

 

旅の間は、どこか、緊張しているのである。

だから、また、疲れる。

 

直したエアコンは、止めないでくれと、言われたので、夜も点けたまま。一度止めると、また、やり直しだと言われた。

この適当さが、またバリ島である。