木村天山旅日記

トラック諸島慰霊の旅 平成20年1月

第一〇話

人の死を悼む歌を詠む歌を、挽歌という。

そして、歌は、鬼神をも、泣かせるという。

 

ランダムに、私の、歌詠みを。

 

愛国の 水盃に うれいあり 若き命を かけしその意を

 

追悼の 思いに満ちて 宣る我は 清め祓いに 清められたり

 

トラックの 海は静かに 凪るとも 散華のみこと 言の葉ゆれる

 

 

いかばかり 苦悩に満ちて 行く兵士 これも愛国 これもわが身と

 

鬼神をも 泣かしめるかな 歌詠みの 歌も残さず 散る命なり

 

 

はるばると かけつけ祈る 我に言え その悲しみの その切なさの

 

 

今もなお 母が待つくに 我のくに 帰り戻りて 泣くものぞかし

 

我を待つ 恋うる心の 思い人 胸に抱きて ここに逝くなり

 

 

平らけく 安らけくかな 南洋の 海静かにて ただそのままに

 

忘れては また立ち返り 振り返り 水底深く 残る思いを

 

しかしまた すでになきなり その思い 風吹くままに 波立つままに

 

 

大伴の 歌いし賛歌 海ゆかば 空にもかかる 雲の一筋

 

 

我もまた 国の御親の 元にゆく ゆくべき国の そり胸の内

 

いにしえも 死を前にして 人は立つ 今も我もは 振り返らずに

 

この時ぞ 敵も味方も なかりけり 運命(さだめ)のゆえの ことと知れり

 

 

追悼の思い

 

恥ずかしく 情け無きかな わが祈り 身を切る思い 至らぬゆえに

 

ありがとう ただありがとう 皆様の 命のお蔭で 生き残る我

 

潮も泣く 山も泣くなり 過ぎし日の 戦の跡の うつつの跡の

 

 

深き海 我知らずその 深き海 深き思いを 知ることもなし

 

父母の 思いは篤く 胸に抱く 骨無き子らの 悲しみを抱く

 

大君の 野辺に 死なまし 国のため 教えを受けて 悔やむことなし

 

 

最後に

 

忘れずに 語り伝えよ この事実 問わずして逝く もののふの雄

 

紺碧の 空と海との 間には 果てない遥か 悲しみの淵

 

 

歌の良し悪しではない。

歌を詠まずに、いられないのだ。