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ある物語 58 

ある物語

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第五八話


2002年4月は、海老名、東京、国立、そして横浜と、コンサートあるいは、ゲスト出演のコンサートだった。
 
その頃、前年の暮れに話があった、ミュージカルの練習が始まる。
その、ミュージカルは、東京でアメリカンポピュラーソングのリサイタルを開催した際に、お客様として来て頂いた、プロデューサーの方からの話だった。
 
その年の夏の開催である。
リボンの騎士・・・
 
まさか、ミュージカルに出演するとは・・・
藤岡も驚いたが、私も驚きである。
 
プロデューサーは、カウンターテナーがミュージカルというのは、面白いでしょうと、言った。
 
その役は、大魔王である。
それも、面白い。
 
最初の頃、私も練習に付き合っていた覚えがある。
だが、それ以外にも、コンサートが続く。
 
6月は、東京にて、和の心・洋の心、というシリーズ物をはじめた。
更に、横浜にて、リュートソングのリサイタルである。
 
和の心・洋の心シリーズは、即、CDにする予定だった。
専門の録音業者を頼み、ホールでの録音である。
 
ちなみに、藤岡のCDは、すべて本番のものであり、そのための録音はしなかった。
それも、凄いことである。
一切の手を入れない、ライブ録音なのである。
 
藤岡も、一切文句を言わない。
 
本番、勝負である。
 
更に、私は宗教曲のCDを作る為に、コンサートを企画した。
リサイタルであり、録音でもある。
ヘンデルの宗教曲だった。
 
その年の、秋の用意である。
勿論、その前に、毎月コンサートがある。
 
今思えば、よくぞ藤岡は、やったものである。
私の企画に、平然として、いいよ、と言うだけである。
 
そして、そんな頃に、藤岡が私に聖書の話を求めてきた。
宗教曲を歌うのに、キリスト教を知りたいというのである。
 
そこで、私は、ヨハネの福音を選んで、毎日、少しずつ読み、解釈することになった。
面白いのは、最初は、よく解らないと言っていた藤岡が、突然、解るといい始めた。
 
ヨハネの福音書は、他の福音書とは違う。
根本的な、イエスの教えが書かれているし、また、書こうとしているのである。
 
勿論、それは、ヨハネ教団という、集団のものであるが・・・
 
兎に角、イエス・キリストに関することに興味を持つことが大切なこと。
 
宗教曲を理解するということでは、役立ったと思う。
 
その他にも、宗教の話をした覚えがあるが・・・
思い出せない。
 
ただ、お墓の話になり、母親が死んだら、お墓をどうするかということを、藤岡が言った覚えがある。
お墓を建てるか、どうするのか・・・
 
私は、お墓を必要としない考えだったので・・・
その時、どんな風に話したのか解らない。
ただ、藤岡は、僕たちは二人しかいないし・・・
その後、お墓を見る人がいないと言っていた。
 
私は、実家に墓があるが、自然葬、つまり自然に帰すという考え方だった。
死んでも、魂は、存在すると考えているので、そのような考えを今も持つ。
 
墓を建てても、誰も世話をする者がいないと、無縁墓になってしまう。
時代は、墓を必要としないのではないかと、思えたが・・・
 
勿論、亡き人を慰霊する場所は、必要である。
そして、お骨の問題。
 
今も藤岡のお骨は、私と共にある。
私が死んでから、それは祀られるのか、自然に戻されるのか・・・
それは、私の遺言となる。
 
50年を経ると、死んだ者は、忘れ去られるという、思い。
この世の人の記憶にあるうちは、その存在がある。
 
それこそ、イエスは、聖書の中で、死者は死者に葬らせよ、という言葉を使うのである。つまり、それは、死後のことは、死者に任せる。
生きている者は、生きることに精を出すということだ。
 
人生は、すべて未完で終わる。
その引き続きは、死後の世界で行われるという、考え方である。
勿論、キリスト教の教義には、輪廻転生の考え方は無いが・・・
 
キリスト教成立以前は、輪廻転生の考え方は、確実に存在していた。
 
それは、インドだけの問題ではなかったのである。
 
キリスト教によって異端とされた、グノーシス主義には、確実にそれがあった。
そして、イエスも、その教えを知っていたはずである。
 
教義とは、人が勝手に、作り上げるものであり、組織に都合よく作るものである。
 
と、藤岡と話し合ったのかどうか・・・
定かではない。
 


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