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ある物語 4 

ある物語

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第四話

私は、藤岡宣男の子供時代、小学、中学時代の話を、断片的に、更にランダムに聞いているので、それを統一して、書くことが出来ないでいる。
 
また、それを詮索する時間も無い。
だから、思いつくままに、書くのである。
 
貧しい生活だったのは、母子家庭であり、おじちゃんからの仕送りによっての生活だったからである。
 
その中で、志は高く、高く持ち続けた。
 
面白いのは、工作が好きだったということだ。
無いから、自分で作るしかない。それも、紙類で作るのである。
子供は、楽しい。朝目覚めてから、眠るまで楽しく過ごす事が出来る。
また、母の存在が、それを真っ当に行わせる。
 
家の見取り図を、いつも書いていたというから、家に凄い憧れを抱いていた。
色々なタイプの家を、考案していたという。
 
それも、一つの楽しみであった。
 
建売住宅のチラシを大切に家に持ち帰り、それを見て、自分で部屋を加えたりと、夢が広がったと言う。
ある建設会社に応募して、その担当者が家に来た時は、母親が驚いた。
のぶおちゃん・・・
あんたなにしたんのん・・・
 
大きな家に住みたい、母を大きな家に住まわせたい。
いつかきっと、大きな家に住む。
 
私に何度も、聞かせてくれた。
 
鎌倉住んでいた、三年間、藤岡は音出しの出来る私の部屋に毎日やってきて、歌の練習をした。その時、私の部屋を広く広く使っていた。
母が物を捨てないから、部屋が狭くて・・・
 
更に、私が空間を作ると、喜んだ。
そこで、子供のように体をくるくると、回って喜びを表した。
それを見て、私も嬉しかった。
 
中学生の頃の、生徒会長の話しも、よく聞いた。
突然、指名されて生徒の前で、話せと言われても、言葉が自然に出てきたんだよ・・・
 
リーダーシップがあったと思う。
 
だが、この話は、切なくなった。
 
僕の家だけが、電話呼び出しだった。
他の生徒の家には、皆、電話があった。
そして、何とその名簿を見せてくれた。
こんなものも、取ってあったの・・・
 
そして、藤岡はよく私に、言った。
親子で爪に灯を点すように暮らしていた。
 
そこで、私も負けじと、貧しい子供時代のことを話した。
私の子供時代は、高度経済成長が始まっていたが、まだまだ、田舎は貧しい生活だった。
 
ラジオからテレビに移行する時代である。
 
周囲が皆貧しいから、別に何とも感じなかった。
しかし、藤岡の頃は、すでに日本が豊かな時代に入っていた。
 
小学生の頃は、お腹が空いて、お腹が空いて・・・
それは、勉強好きな藤岡にとっての、糖分補強だろうと思った。
何杯も、ご飯をお替りして食べたよ・・・
 
中学生になっても、勉強好きは変わらない。
 
本は、あまり読まなかったが、本の内容を書いてある、本を一冊買って、どんな内容か知るんだ・・・
そうすると、友達と話しが合う。と、笑った。
 
そこだけは、私と違う。
勉強はしなかったが、本を読んだ。
ただし、宗教書であるから、役立たずである。
 
その後、藤岡は広島大学付属福山高校から広島大学へ進学する。
周囲の反対を押しのけて、教育学部である。
 
その時、広島に友達数名と家を借りて住んだと、聞いた。
それと前後して、藤岡も母と一軒家に引越ししたと思う。
家賃が六千円と、聞いた。
福山駅に近い場所だった。
 
夏は暑くて、冬は寒い家だった。
暑くなると、母とよく喧嘩をしていたという。
互いに暑さで、イライラしていたんだ・・・
 
そして、アメリカ、ミシガン大学への、国費留学である。
その話も、断片的で、ランダムであるから、流れとして書く事が出来ない。
 
付き合っていた、同じ大学の女性とも一緒だったようなことを聞いた。
だが、彼女は病気で亡くなったという。
 
その辺の詳しいことは、聞いていない。
 
藤岡の学費は、すべて奨学金であり、学費免除を受けていた。
その書類が保存されている。
 
奨学金は、毎年返済していた。
ただ、鎌倉に住み、レッスンなどで大枚なお金を使い果たし、暫く返済免除申請をしていた。
 
私も藤岡も、最も辛かった時期である。
 
私は、長年潜在していたパニック障害を発症していた。
気づいた時は、相当重症になっていた。
だが、藤岡も、私が治療に当っている間に、パニックに似た症状を訴え始めたのである。
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