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ある物語 46 

ある物語

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第四六話


藤岡がカウンターテナーに目覚めたのは、カウンターテナー、ブライアン・アサワという、アメリカ人の歌い手との出会いと聞いていた。
 
そして、最初に師事した先生は、札幌の短大の発声の先生だった。
勿論、藤岡の声を作った訳ではない。
単に、適当な知識を知る者だった。
 
そして、東京から教えに来ていた先生に師事するようになる。
その先生とは、カリスマ的で人を驚かせるのが得意である。
 
本人は、舞台で歌など歌える力量は無い。
ただ、発声のみを教える。
だから、一通りを習えば、それでいいのだった。
そして、藤岡は止めた。
 
それから師事したのは、発声ではなく、解釈に優れている先生である。
古楽を専門にした。
 
その先生に師事しつつ、リサイタル活動を始めていたのである。
 
更に、藤岡の面白いところは、体を知ることだった。
マッサージをはじめ、整体から、特殊な治療法をする所に多く出掛けた。
 
私は、体の凝りを取るものばかりと、勘違いしていたが・・・
藤岡は、歌う体を作るということを考えていたのである。
 
それが後に、藤岡の発声法を作り上げる基礎になった。
 
私は、良く藤岡の実験台にされた。
今、知ったことだよ・・・
と、言いつつ、私の体を揉んだり、操作するのである。
 
更に藤岡は、木村さんを揉む事が出来るのは、僕だけだと言う。
確かに、よく藤岡に揉んでもらった記憶がある。
 
少し遅れて、私も整体を研究するようになるのが、面白いことだった。
藤岡とは、別である。
 
それを知るには、整体をして貰うことが一番である。
と言うことで、部屋に来て貰い、よく整体を受けていた。
そのうちに、藤岡も受けることになる。
 
体が整えば、気持ちも、心も整うのである。
 
そして、私は、昔やっていた、足裏のマッサージを再び学ぶことになった。
それは、その治療を受けつつ、学んだことを、今度は自分でやってみるということである。
 
藤岡にも、足裏治療をしたが、痛いと、いつも蹴られていたのを思い出す。
 
私の、足裏マッサージは、棒を使うものだったが、あまりに痛みが強いので、それを指に変えた。
その時は、自分と藤岡の足裏をするためだけだったが・・・
 
藤岡の健康志向は、強かった。
兎に角、色々なものを試していた。
健康グッズというものを、よく買ってきていた。
 
それで、時々喧嘩をした。
様々なものを部屋に置くので、私が困るのである。
その意味を知らないから、なお更である。
 
更に、発声に使うための、大きなボールなどである。
狭いリビングが、更に狭くなるのである。
 
その大きなボールに、背中を向けて何やら、動く。
つまり、背筋を鍛えるのである。
 
思うがままに、藤岡は発声のために、色々と試していたことは、確かである。
 
さて、私はコンサートのために、ホール予約に、よく出掛けることになった。
電車に乗る。
それが恐怖だった頃から比べて、天地の差があった。
 
医者からも、もう大丈夫でしょう・・・と、言われたが・・・
薬は止めなかった。
二度と、あのような状態になるのが嫌だった。
死ぬまで飲み続けようと思っていた。
 
世の中には、パニック障害のことが知れ渡り、本当に良かったと思った。
何せ、私の時は、不安神経症なのである。
病名が無かった。
 
それ以前の治療法に、精神的な御託を並べたものが多かったが、薬で良くなるのである。そんな良いことは無い。
 
脳内物質の加減なのである。
 
延々と時間をかけて、治療しても良くならないのである。
つまり、必要な脳内物質を得ると通常の生活が出来る。
それまでは、単なる、怠け者のようであった。
 
乗り物に乗って、死ぬ覚悟を何度したことか・・・
口から心臓が飛び出る感覚である。
 
そのカラクリが解らない頃は、本当に悩んだ。
 
生育暦に何か問題が・・・
過去を振り返り、振り返りと、繰り返したが・・・
全然、駄目。
 
そのうちに、男の更年期も言われるようになった。
それも、良いことだった。
それは、ホルモンの減少によるもの。
 
私の相談者の回答にも使うことが出来た。
何か方法があるということだ。
 
更に、面白いことに、障害の有り様は、百人百様なのである。
今では、パニック障害の相談を受けられるほどに、詳しくなった。
 


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