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ある物語 41 

ある物語

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第四一話


横浜に戻った私は、早速、コンサートの企画、更に会場の手配をする。
今思えば、どういうエネルギーだったのかと、思う。
 
何せ、神戸の後は、東京で二度のリサイタルを、そして鎌倉のプロテスタントの教会での、リュートソングリサイタルである。
更に、新潟でリサイタルをした後で、その主催する団体の代表から教えられて、ワインを製造している有名な場所での、ディナーコンサートを企画する。
 
そして、五月の札幌の後に、秋も、もう一度リサイタルをすることにした。
それも、リュートソングである。
古楽である。
 
と、古楽と書いたがいいは、よく知らないという・・・
呆れる様である。
 
秋、10月だけでも、新潟、札幌、東京とリサイタルを決めた。
勝手に、である。
 
藤岡には、事後承諾させた。
いいよ・・・
それで、オッケーである。
 
チラシ作りに、チケットも、自分で作る。
手作りチケットである。
もくぞ、やったものである。
 
その寸法が、バラバラだと藤岡に言われて、藤岡が切断機の印をつけるという・・・
 
そして、チラシの校正である。
何度も、藤岡に僕に見せてと、言われた。
 
そのうちに、プログラムも私が作るようになる。
ワープロである。
まだ、PCを使いこなせなかった。
 
更に、案内状を作る。
知らぬ間に、私は、とんでもない世界に、身を入れていたのである。
 
藤岡の生活は淡々としたものだった。
毎日、仕事に出掛けて、歌のレッスンをして、実に優雅に見えた。
 
私は、独楽鼠のように、動いていた。
何せ、藤岡の食事を作る。そのために、買い物をする。
 
果物、甘いもの・・・
藤岡の好むものを知った。
藤岡を中心にした生活である。
 
更に、自分のやりたいことを忘れた。
勿論、その間に、時々、昔のお客さんの相談なども受けていたのだが・・・
 
北海道時代の、占いの相談である。
私を探して電話を掛けてくる。
 
どこから、私の場所を知りましたか・・・
ああ、新聞社です・・・
えっ・・・
教えてくれましたよ・・・
 
お客さんは、有り難いものである。
更に、藤岡が作ってくれた、簡単な私のホームページを見て知る人もいた。
 
ただ、私が企画したコンサートの他にも、藤岡が誰かを通して知り合った方からの縁で、コンサートにゲストで呼ばれることも多くなった。
 
そこへも私は着いて行く。
そして、コンサートのチラシを配る。
自分のやっていることが、プロデューサーとか、何とかという意識はなかった。
知らず知らずに、プロデューサーになっていたのである。
 
更に、ディレクター、更に、受付、裏方・・・
アナウンスまでしたりして・・・
 
さて、鎌倉での生活を地獄の生活だとすると、横浜の生活は普通の生活である。
ただ、藤岡は後遺症のようなものを抱いていた。
 
二人共に、薬は必要だった。
抑うつの薬と、パニック障害の薬は、ほぼ同じである。
 
藤岡は、横浜の病院に替えた。
私は、月の一度、鎌倉の病院に出掛けた。
病院を変えることは、出来ないと思った。
折角、調子がよくなりつつあるのである。更に、全快までとは言わないが、普通に乗り物に乗れるのである。
 
電車に乗るために、どれ程の勇気がいたか・・・
それは、体験しないと解らない感覚であろう。
 
どれ程、心理学の知識を得ても、無理なのである。
治ることと、知ることは、別物である。
だから、その手の心理学の本を、すべて捨てた。
 
昔、神経症に関する書籍も多く読んだが、百冊近い本を捨てた。
そんな知識は、何の役にも立たない。
精々、人に話して聞かせて終わりである。
 
一つの薬に適わないのである。
 
精神分析というが、私には笑いものである。
アメリカで何年間も、精神分析を受けた人が、一つの抗うつ剤で解決したという。そんな程度である。
今は、それを自我心理学というが・・・
まあ、どうでもいい話である。
 
さて、新潟公演の準備をする私である。
プログラムは、すでにあるので、その上の、札幌を、新潟リサイタルと名を変えるだけでいい。
準備万端である。
そして、藤岡も暢気に構えている。
ピアノ伴奏は、札幌リサイタルと同じ方に頼んである。
後は、行くだけである。
 
 


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