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ある物語 36 

ある物語

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第三六話


札幌リサイタルは、前日入りである。
だが、当日の夕方、都心から離れたホテルにて、招かれたコンサートに出演する。
 
女性ピアニストと共に、札幌市内のホテルにチェックインして、少し休憩して出掛けることにした。
 
リサイタルと同じ曲名を用意していて、二日そのプログラムを演奏することになった。だから、藤岡には十分余裕があった。
 
余裕があり過ぎて、藤岡は札幌でも仕事のために、人と会う予定をしていた。
リサイタルの翌日、東京に戻る前に人に会い、プレゼンツするというものである。
 
私は、藤岡とピアニストを連れて、久々に地下鉄に乗った。
全く、違和感がないのである。
ドキドキする感覚も無い。
 
これで、すべての乗り物に対する恐怖がなくなった。
ただ、時々、とても空しくなる感覚があった。それも後遺症だと思い、やり過ごしていた。
 
依頼された代表の女性の方にお会いして挨拶する。
藤岡は、以前からの知り合いである。
札幌時代に知り合っていたという。
藤岡が歌の道に志してからも、やり取りしていて、今回の企画である。
 
客が入る前に、軽くリハーサルをする。
その際、ホールではなく宴会場であるため、マイクを使用した覚えがある。
軽く声を拾うような感じである。
 
私は、一番端のテーブルに腰掛けて、聴いていた。
本番の時も、そこに座っていた。
 
そして、客入りがあり、藤岡が代表から紹介されて、プログラムが始まった。
順調である。
私も、皆さんと一緒に聴いていた。
 
和やかな雰囲気である。
何でも、その会発足の第一回目の催しであった。
 
一通りのプログラムを終えると、代表者と藤岡が舞台でお話するということで、藤岡は質問に、丁寧に応えていた。
 
更に、終演して藤岡を皆様が見送る。
私は、代表の方からギャラを頂き、軽くお話しをした。
 
会場の外では、お客さんが藤岡を囲んで写真などを撮る。
 
とても喜ばれたと、私は安堵した。
これで明日も、大丈夫だと思った。
 
泊まったホテルは、札幌駅前のビジネスホテルである。
夕食は、ホテルの居酒屋にした。
その際に、ピアニストと一緒だったのか・・・
忘れた。
 
翌日は、三人でリサイタルのホールに向かった。
そのホールもホテル内にある。
素人の私が考えたことであり、音合わせの際に愕然とする。
 
すでに座席が作られていた。
私の、そのホテルの常務である友人もやって来た。そして、一緒にリハーサルを聴いていた。
それを聴いていた友人が駄目だ・・・と言う。
私も、気づいた。
 
響かないのである。
そこで開催するコンサートは、皆マイクを使用するものだった。
声楽家の声を想定していない。
 
友人が即座にマイクを用意させた。
そして藤岡がマイクを使い、歌う。
最初は大きかったが、音響の方が、少し少しと小さくする。
丁度良い音になった。
 
これで行くしかない・・・
私も、そう思った。
藤岡は別に気にする様子もなく、納得していた。
 
その頃から、藤岡は生声でも、マイク使用でも、自在に利用することが出来ていた。
 
昨日のコンサートも、マイクを使用したのである。
 
漸く、開演前に準備が整った。
だがそれで私は、次から音楽ホールにすることを決めた。
 
札幌での第一回目は、私の知り合いの客が多い。
ということで、挨拶をすることにした。
暫く振りで会う人たちもいる。
 
藤岡も、それを良しとした。
 
開場する際は、私が受付をする。
藤岡とピアニストには、ホール上の部屋が当てられた。
その部屋は、ホール全体が見渡せるのである。
 
受付も、ホテルスタッフの人たちが準備していた。
 
私の、昔のお弟子さんたちが最初に来た。
懐かしさに話しが弾む。
しかし、開場時間になると、次々と知り合いが来て、一々の挨拶であるから大変だった。
 
座席は、250席程であり、その半分が埋まればいいと願った。
丁度、北海道は春であり、出掛けるのが苦ではない時期である。
 
客入りは、思った通り半分程度である。
開演時間が迫る。
 
アナウンスは無し。
少し時間が遅くなった。
本番明かりにしてもらい、そこで私が藤岡に合図する。
藤岡とピアニストが、ホール中央の階段から降りて来て、舞台に上がる。
休憩の際は、別にホールの舞台から上手に抜けての部屋を使うことにした。
 

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